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反抗すればかっこいいんだ、という考えはおかしい

——「権力だから悪で、反権力だから正しい」ではなくて、人間も社会もとても複雑で、いたずらに単純化してはいけない、というわけですね。小説が、人々の教養として深く入っていけば、すぐに役立たなくても、10年、20年の社会で、例えば何か大きな危機があった時に「こう考えてはどうだろう」と間接的な影響を発揮するかもしれません。

中路 確かに、そうあってほしいですよね。私は、もっといえば、反権力という立場にずっといるひとは、「だらしがない」と思うんですよね。「悪魔崇拝」に似ていると思うんです。悪魔崇拝者は、キリスト教に反抗し、聖書を反対からよむなど、様々な儀式を行います。ただそれは、キリスト教を前提として成り立っているにすぎない。権力者が間違っているのであれば、そのときには徹底的に戦えばよいのであって、つねに「俺は反権力だ」と意気がっているのは、それこそ権力にべったりと寄りかかっている証だと思うのです。

 

——中路さんの学生時代は、反権力志向が強い時代だったと思いますが、そのころから違和感をお持ちでしたか?

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中路 たしかにそうですね。反抗すればかっこいいんだ、という考えは、おかしいとは感じていましたね。

「この権力者がこの国を変えた」というフォーマットが存在しない日本

——最近は、昔の権力者が、現代にタイムトリップするという映画もあります。ヒトラーの映画もありましたし、今度、イタリアのムッソリーニが帰ってくるらしいんです(笑)。こういうとき、日本だとしたら、どの権力者になるんでしょうか。

中路 日本にはふさわしい人がいないですよね。東条英機は、たしかにナチス・ドイツと同盟を結んでいた国の指導者ですが、「自らの死期」が権力の終わりだったヒトラーとは立場がまったく違います。戦時中であっても、帝国議会には反抗されるし、重臣たちや、軍部内でも若い将校たちから足を引っ張られ、戦争の途中で総理の座から引きずりおろされている。つまり、東条英機は小粒な権力者です。

 

——近衛文麿にしても、途中で辞めてしまいますからね。「この権力者がこの国を変えた」というフォーマットが存在しないですよね。これは日本の近現代史でよくいわれることですが、独裁的な権力者がおらず、誰が責任者なのかわからない状態で、日本はずるずると戦争へ突き進んでいってしまった。

中路 昭和天皇がおっしゃっていた「統制が効かない」「みんな好き勝手している」「下克上」という発言はまさにそういう意味だと思いますね。