文春オンライン

日本人ほど「独裁」が嫌いな人たちはいない――作家・中路啓太が考える、天皇の役割

2019/09/23
note

日本人ほど「独裁」が嫌いな人たちはいない

——もしかしたら日本は、「下克上モデル」の国なのかもしれないですね。

中路 かもしれないですね。私は、世界中で日本人ほど「独裁」が嫌いな人たちはいないと感じています。こういう組織のモデルは、どこからきたのか、という疑問はずっと持っています。江戸時代でも、幕府の重要な役職は月番制なんです。つまり月ごとに交代し、責任が1カ所に集中しないようになっています。また、幕末の外交交渉においても、欧米列強の代表者たちは、日本側代表のうち、誰が責任者なのかがわからずに戸惑っていました。「奉行」と呼ばれる武士の隣に、「目付」がいたりするわけですから。

 この「いったい誰が一番偉いんだ?」という状況は、明治以降も、もっと言えば今も続いているような気がしています。たとえば、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムのデザインについて、盗作として訴えられたときなども、組織のなかでの責任の所在はまったくわからないままですからね。

ADVERTISEMENT

 

戦争を実体験していない世代の作家として

——これまでの著作を拝見していると、当初は戦国時代や江戸時代を描かれ、ここ最近は、近現代史が増えてきたように思います。なぜテーマを変えられたのでしょうか。

中路 テーマを変えるというよりも、実は私が飽きっぽい性格だという部分が大きいんです(笑)。もともと江戸時代を描いて、その小説でデビューできたのですが、その後は、その都度、その都度、書きたいものを書いているだけなんですよね。

 ただ、司馬遼太郎さんが、日露戦争を扱った『坂の上の雲』の連載をはじめた1968年は、日本海海戦やポーツマス条約締結から63年後でした。戦後70年を超えた今、当時を実体験していない世代の作家が、昭和史を本格的な歴史小説として書いてもいいのではないか、とも思っています。

——近現代の方が、戦国や江戸よりも資料が圧倒的に多いため、先ほど申し上げた想像力を生かしにくいと思うのですが。

中路 確かにそういった面はあると思いますね。特に昭和天皇の話なんて、資料どころか、直接知っているという方すらご健在なわけです。担当編集者と一緒に、かつて昭和天皇に仕えていた方にお話を伺ったこともありますが、その方はさらに、子どもの頃、二・二六事件が起きたとき、叛乱軍鎮圧のために地方から上京した兵隊さんが家に泊まった、という経験も聞かせてくださいました。そういう時代のことを書くという怖さはありますよね。

——これからは、どんなテーマを描いていきたいとお考えですか?

中路 近現代を舞台にしたものも、そうでないものも考えています。しかし、詳しくは「一緒に仕事をしましょう」と言ってくれる編集者にのみ打ち明けることにします(笑)。

——今後の作品も楽しみにしています。

中路 有難うございます。

写真=石川啓次/文藝春秋

昭和天皇の声

中路 啓太

文藝春秋

2019年8月8日 発売

日本人ほど「独裁」が嫌いな人たちはいない――作家・中路啓太が考える、天皇の役割

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー