この制度の双方を受験し、ともに合格したただ1人の人物が今泉健司四段である。かつての今泉も奨励会員としてプロ棋士を目指したが、年齢制限により三段で退会。その後アマチュアとして活躍しアマ竜王戦、アマ王将戦を制覇、三段リーグ編入試験を受験し合格した。
しかし三段リーグでは再び挫折し、退会。それでもくじけず、今度はアマチュアとして対プロ公式戦で好成績を挙げプロ編入試験の受験に至り、ついに悲願を成し遂げた。
折田アマも三段リーグ経験者という意味では先輩2人と共通点がある。そして現行制度のプロ編入試験では今泉以来、2人目の挑戦者となる。折田アマのプロ編入試験について今泉に語ってもらった。
僕が勝ち星に貢献したのも何かの巡り合わせでしょうか
――折田さんがプロ編入試験を受験することが正式に決まりました。
「資格を得たことはすごいと思います。僕と瀬川さんが(折田さんの)勝ち星に貢献したのも何かの巡り合わせでしょうか。棋士としては情けないことで、悔しいことだけど、折田さんの成績は大したことですよね。プロ相手に10勝2敗ですから。プロの視点としては、アマプロ戦は絶対にやりたくない。切実にそう思いますよ。以前、ある棋士に言われたんですが『アマチュア今泉とは絶対にやりたくない。プロになったら喜んでやりたいけど』と。アマチュア側は、基本的にはのびのび指せるんですよ。そういう意味では折田さんも同じでしょう。奨励会三段とプロ四段の実力差はないに等しいです」
――かつての今泉さんはアマに転向後、初めて参加したプロ公式戦の竜王戦で3連勝しました。また当時は、瀬川さんがアマチュアとして史上初めてA級棋士(久保利明当時八段)に公式戦で勝ち、大きな話題になったころでもありました。
「そうなんだ、当時は全然知らなかったですね。自分のことでいっぱいいっぱいだったので。瀬川さんの意向を知ったのは『将棋世界』での意思表明です」
編入制度が決まる前に会社を辞めた
――そのあとは割とポンポンという感じでプロ試験実施まで進みました。
「すごいと思いましたよ。奇跡が起こったとしか思えません。でも、それは瀬川さんの人徳ですね。無類の好人物だからこそ、皆が彼の背中を押したのでしょう」
――瀬川プロ誕生の瞬間を今泉さんはどのように見ていましたか。
「こんなことが実現するのかと思いましたよ。私は年齢制限で奨励会を退会しましたが、実力が足りなかったとは思いませんでした。瀬川さんが切り開いてくれたなら俺もやるぞ、という気持ちでしたね。でも制度が決まる前に当時勤めていた会社を辞めたのは、今にして思うと恐ろしいまでの単純衝動でした(笑)」