文春オンライン

連載昭和の35大事件

政治家の横領を追及した検事が謎の死…… “石田検事怪死事件”の真相に迫る「発生前夜」

政治家の横領を追及した検事が謎の死…… “石田検事怪死事件”の真相に迫る「発生前夜」

「社会悪を亡ぼすためには、死をかけても戦う」鬼検事に一体何が……

2019/10/27

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, メディア, 政治

note

他殺の線を打出すことは木によって魚を求めるようなもの

 新聞は最初過失死らしいと報じたが、死後3日目の各紙夕刊は、夫人の名で宴席から石田検事を誘い出し、某所で暗殺したのち、死体を自動車かリヤカーで現場に運んだ。線路に横たえておくと、保線係や運転手などに発見され、死後轢断をたくらんだことが発覚する惧れがあるので、電車から飛びおりたか、あるいは線路通行中に電車か汽車に跳ねとばされたものと見せるため、鉄橋下の小川にほおりこんだものらしい。

 検事局と警視庁はこの線で捜査をしているが、加害者は石田検事の手で取調中だった。各政党首脳者の疑獄事件に関係あるものと見られていると報じた。

 下山総裁の怪死に対しても、これと同様の推測が行われたが、もし東大側が死後轢断と鑑定したことが事実とすれば、死後轢断を避けた石田事件の犯人のほうが、思慮周密ということになる。とくに下顎部の致命傷を、墜落のさい橋桁で強打したように見せかけた点など、堂に入ったものだ。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 石田氏の遺族や親戚たちが、30年を過ぎた今日でも、他殺の裏づけをなす証拠を集めているのも無理がない。けれども当時の検事や警察官は殆ど現職を去り、あるいは他界しているので、他殺の線を打出すことは木によって魚を求めるようなものではあるまいか。

 東郷元帥とか西園寺公の死去に当っての新聞社の速報競争は大変な騒ぎだった。

 麴町の東郷邸のそばにそれぞれ本部を置いて、あるものは2階から望遠鏡で邸内の様子を偵察する係り、あるものはヘイの穴から中をのぞく係りなど四方八方網を張ったものである。

 もっと高等戦術になると、玄関子とコネをつけて、腕を後に組んで3回まわったら危篤のサインだと、野球なんかのヒット・エンド・ランのサインよろしくの打合せなどもあったらしい。

 西園寺公の場合も、各社どっと興津へ押しかけて大変な混雑。

 ここでもヘイののぞきをやろうというわけで、大まじめになってコンクリートのヘイに穴をあけたとかいう話もある。

 情報のルートとして、ある新聞社が、旅館の番頭さんと、ねんごろなコネをつけておいた。

 さて園公が死去してから楽屋がわかってみると、どの新聞社もこの番頭さんと一様にコネをつけていたことがはっきりして一同苦が笑い。

※記事の内容がわかりやすいように、一部のものについては改題しています。

※表記については原則として原文のままとしましたが、読みやすさを考え、旧字・旧かなは改めました。
※掲載された著作について再掲載許諾の確認をすべく精力を傾けましたが、どうしても著作権継承者やその転居先がわからないものがありました。お気づきの方は、編集部までお申し出ください。

政治家の横領を追及した検事が謎の死…… “石田検事怪死事件”の真相に迫る「発生前夜」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー