「竜王」「八段」での新人王となった藤井猛
新人王戦決勝三番勝負で再び羽生世代同士の決戦が実現したのは93年、第24期の佐藤康光七段対森内六段(段位はいずれも当時)だ。この時の両者は、竜王戦挑戦者決定戦三番勝負でもぶつかっていた。当時、新人王戦決勝の予想を問われた島朗九段は「先立って行われる竜王戦挑決で負けたほうが、おそらく新人王になるでしょう」と答えている。はたして新人王戦は森内が制し、竜王戦の挑戦権は佐藤が得た。佐藤は七番勝負でも羽生を破り、自身初のタイトルを獲得している。
これ以降、しばらく羽生世代の棋士が新人王戦を制することが続いたが、その中で異彩を放つのは第27、28、30期で優勝した藤井猛九段だろう。第30期で藤井が優勝した時の肩書は「竜王」である。時のタイトル保持者が新人王戦を指した例は過去にもあったが、タイトル保持者が新人王となったのはこの時の藤井が初である。
当時の状況をみると第30期新人王戦の開幕戦が行われたのが98年の11月9日で、藤井が竜王を獲得したのが11月19日、八段昇段が99年の10月1日、そして藤井が3度目の新人王となったのが99年の10月18日である。八段の新人王というのも史上空前であり、あるいは絶後(現行の規定で完全に不可能というわけではないが)かもしれない。
現役最年少棋士ながら新人王戦を「卒業」
そして、藤井以来のタイトル保持者新人王となったのが第36期の渡辺明である。第36期の開幕戦が2004年の10月26日で、渡辺竜王の誕生が04年の12月28日。新人王に優勝したのが05年の10月14日であった。ちなみに当時の昇段規定では、新人王優勝の時点で渡辺はまだ段位としては七段だった(八段昇段は05年11月17日、さらに同年の11月30日に九段昇段。21歳7ヵ月は史上最年少の九段となる)。
渡辺にとって新人王戦は相性の悪かった棋戦で、第32期から計5期参加しているが、そのうち3回が初戦負けである。だが、竜王として参加した第36期では簡単に負けられない。優勝直後に「今回のトーナメントはプレッシャーを感じていたので責任を果たせて肩の荷が降りました」と自身のブログで振り返っている。
昨年の新人王戦では、藤井聡太七段が奨励会員だった出口若武三段(現四段)を破り優勝した。16歳2ヶ月での優勝は、史上最年少新人王となる。トーナメントを勝ち進む最中に四段から七段まで昇段した藤井は、現役最年少の棋士でありながら今期以降の新人王戦への参加資格を失ったというのも、藤井が他棋戦を含めて勝ちまくったゆえに生じた珍事であろう。現役最年少棋士が新人王戦を「卒業」したのは史上初のことだった。