ビームスのロゴと宇宙を巡る奇縁
冒頭の設楽が語る。
「完成した服を見て、思った以上に“ビームス的”だなと感じました。うちの会社は一般社会では優秀か分からないけど、一芸に秀でたプロフェッショナルはいる。今回のプロジェクトではそういう人間がいる強みを出せたと思います」
「正直言って、私が歳じゃなければ自分自身が宇宙に行きたいと思っていましたが、体力も頭脳も追いつかない。でも、ビームスというのは自分の分身のようなものです。私が生きているうちにそれが宇宙に行ってくれるのは、喩えようのない喜びです。当社のスタッフも同じ想いだと思います」
遡ると実は、ビームスと宇宙を巡る奇縁はこれが初めてではない。オレンジ色の地球と、その周囲をラインを描いて回る飛行機――。今では広く認知されているビームスのロゴだ。
「このロゴはビームスがスタートして10年目に考えたものでした。当時はお金がなかったので、社内のクリエイティブの人間に任せたんだけど『社長、どういうのを作ればいいかわかりません』と言う。私が『例えばさ、地球をこうやって飛行機がぐるぐる回るやつとかどうだ』と言ったら、その通りのマークになったんです(笑)」(同前)
ガガーリンに憧れた設楽の思いを具現化したかのようなロゴは、30周年を記念してラインを3本に増やすなどリニューアルが加えられたものの、ずっとビームスの象徴であり続けた。
〈宇宙に存在する全てのものは、偶然と必然の産物だ〉
こう語ったのは近代自然科学にも大きな影響を与えたギリシャの哲学者デモクリトスだ。ビームスが宇宙に行くという物語は、デモクリトスの言葉の通り偶然であると同時に必然でもあった、と思えてくる。
今や宇宙事業にまで進出したビームスは、今後どこを目指していくのか――。これまで扱ってきた事業は広範囲に及ぶ。カップラーメンの共同開発から、スターバックスとの協業に至るまで。今年4月にはアメリカのセレクトショップ「Fred Segal(フレッド シーガル)」にて、「BEAMS COUTURE」とプラスチックバッグ「Ziploc」とのコラボ商品を販売したのを始め、北米やシンガポールにおいてビームスのポップアップストアを展開する予定だ。また、8月にはビームスがプロデュースしたJAL(日本航空)のビジネスクラスのアメニティキットも登場した。
「私はファッションとは、もの凄く楽しくてエキサイティングで、時にスキャンダラスなものだと伝えたいんです。だからJAXAさんから文春さんまで、幅広くコラボする(笑)。そうしたチャレンジの中から、次の時代のスタンダードは生まれてくると思うんです。ビームスが、そのきっかけになれたなら最高ですよね」
設楽は、そう語ると目を細めて笑った。(文中敬称略)
あかいし・しんいちろう 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事の執筆を行う。