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三浦春馬、上白石萌音も……なぜ日本の美術館音声ガイドは独自の進化をとげたのか

業界最大手に聞いてみた

2019/12/06
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 そんな中、アコースティガイド・ジャパンは音声ガイドの刷新に乗り出す。内容の充実には、倉田さん自身も深く関わってきた。 

「日本支社立ち上げの半年後に入社した私も、いきなりコンテンツ制作に携わることとなりました。設立したての当社が初めて担当した大規模展は、上野の森美術館で開催された『パリ・国立ピカソ美術館所蔵ピカソ』展。音声ガイドでは、ピカソが画風の変遷と共にパートナーの女性も変えたことを切り口に、女性アナウンサーの方たちを起用して、パートナー役を演じていただいた。ただ、当時は音声ガイドがそれほど普及していなかったので、来館したお客様に『アナウンサーさんたちが館内を案内してくれるの?』と聞かれたりもしました(笑)」 

 この展覧会がきっかけとなり、著名人を音声ガイドに起用するスタイルが全国的に定着していった。 

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台本はオリジナルで書き上げる

 アコースティガイド・ジャパンでは、周辺情報を独自にリサーチし、オリジナルで台本を書く。 

「当初は台本を読んだ学芸員の方から『こういう表現は学術上どうなのか』『かなり簡潔にしてあるが、もうすこし詳しく説明したほうが……』と指摘を受けることも多かったんですよ。でも、大前提として、目で見て分かりやすい文章と、耳で聞いて分かりやすい文章って全く違う。おまけに、音声にはあまり字数を詰め込むことができません。1分間で、300文字程度が理想的と言われているので。 

 そうした意図を丁寧に説明したり、情報の出典を細かくお伝えるようにしました。すると、美術館や主催者の方々との信頼関係もできてきて、内容もかなりお任せいただけるようになった。今では、学芸員の方に『こんな情報、よく調べてきたね』とお褒めいただくこともあります」 

 台本について語るときの倉田さんは、徹底的に顧客目線だ。 

「台本を書いていると、ふと思ったりするんですよ。これはドラマのセリフ調にしたらもっと喜んで聴いてもらえるんじゃないか、掛け合いみたいにしたほうがわかりやすくなるんじゃないか。子どもがたくさん来る博物館の展示なら、スピーディな展開にして効果音を入れて惹きつけたらどうか……。それでいろいろと工夫を入れ込んでみたところ、幸い好評を得られまして、だんだん定番化していきました。

 音声ガイドで大切なのは、使う方にとってわかりやすくて楽しんでもらえるものであるかどうか。そこを最優先して、つくる側の私たちも『素人の目線』を忘れぬよういつも心がけています」 

 台本作りが本格的に始まるのは、展覧会開始の約4ヶ月前。そのうち1ヶ月は多言語対応に費やすことが多いため、実質の制作期間は3ヶ月という。かなりの急ピッチでは?