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三浦春馬、上白石萌音も……なぜ日本の美術館音声ガイドは独自の進化をとげたのか

業界最大手に聞いてみた

2019/12/06

眼は作品に集中してもらうために、情報は音声で

 アコースティガイド・ジャパンが牽引するかたちで2000年代以降、日本の美術館で音声ガイドは急速に存在感を増した。が、ひとつ疑問も浮かんでくる。大型企画展では世界的な名画が大量に運ばれてきて展示される。本物とじっくり対峙して味わうだけでじゅうぶんという面はないだろうか。音声で解説を加えたり盛り上げたりする必要性はどれほどあるか。 

「そうですね、絵の脇にあるキャプションを読めばそれでいいじゃないかという声は当然と思います。ただ、その場で書き文字を読むとなると、それも視覚で情報を得るかたちになってしまうんですね。せっかく実物の作品が目の前にあるのだから、それを楽しむために視覚はとっておきたい気もします。

 眼は作品に集中しておいていただいて、補足の情報は音声で摂取していただくとバランスがいいのではないかと。内容をつくる側としては、作品と向き合っているお客様の邪魔にならないよう、出過ぎた演出はしないことを肝に銘じています」 

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 1999年に入社して以来、倉田さんはコンテンツ制作はもちろんのこと、見積もり作成や営業まであらゆる仕事をこなしてきた。美術業界とのつながりも深まり、周囲から推されるかたちで代表となって現在に至る。事業として見た場合、現状は順調だろうか。 

「現在は会社全体で同時期に十数件の特別展と常に関わっている状態。社員は少数精鋭なので全員フル稼働ですが、学芸員有資格者をはじめ、イベント運営経験者や元編集者らいろんなバックグラウンドを持ったスタッフがいるので、それぞれの強みを生かして仕事を回せていますね」 

音声ガイド業界、次なる一手は「インバウンド」

 進化してきた音声ガイドの世界に、次なる一手を打つ予定はすでにある? 

「ありがたいことに、この音声ガイドを聴きたいから美術展に行く! という方も出てきてくれていますので、まずはそうした期待にしっかり応えたい。そのためにはガイドの内容ありきでしょうね、いっそうの充実を図りたいです。 

 あとは観光スポットで、もっと音声ガイドが活用されるようにしていけたら。ニューヨークの自由の女神だったり、バルセロナのサグラダ・ファミリアなど著名な観光地では、音声ガイドが用意されている例は多く、たくさんの人がサービスを使っています。日本にも歴史的建造物や自然などたくさん観るべき場はあるのですから、そういうところに音声ガイドを普及していけたら。もっと言えば、そういった場所での多言語化も強化していきたい。