夜になってMTR(地下鉄)の銅鑼湾駅に入ると、覆面をした黒スプレー部隊が切符の自販機や改札機、窓口などを汚している真っ最中だった。改札内の監視カメラも壊されている。
彼らの理屈では、MTRの運営会社の港鉄は悪しき香港政府の手先であり、デモ隊の移動を妨害している。なので天誅を加えて当然なのだそうだ。だが、それによって一番困るのは香港政府ではなく、港鉄の一般職員や清掃のおじさん、なにより駅を使わなくてはならない市民だろう。
この翌日には香港国際空港に近い東涌駅がさらに激しく荒らされ、改札機などが破壊された。中国政府を「ナチス」と罵倒している(この表現自体はさほど間違っていないと思うが)人たちが、みずからクリスタル・ナハトをやってどうするのか。
催涙弾241発……そして実弾2発
31日の日中まで話をもどそう。
同日午後、不許可デモながらも平和的な数万~10万人程度の市民デモがおこなわれた。その解散後、午後5~6時ごろから、マスクとヘルメットで完全武装した数千~1万人の勇武派が政府庁舎前で警官隊と衝突を開始。やがて戦線をジリジリと銅鑼湾方面へ下げていった。
バアン、ドン。路上では警官隊が催涙弾やビーンバッグ弾を撃ちまくり、周囲に漂う白い催涙ガスが鋭く肌を刺す。ガスマスクを付け忘れたメディア関係者が顔を押さえてうずくまり、デモ隊の救護班に助けられている。はっきり言ってやりすぎであり、目の前で見ているともちろん警察側にも腹が立つ。
この日1日で、香港警察は催涙弾241発、ゴム弾92発、スポンジグレネード10発、ビーンバッグ弾1発と、空に向けての2発の実弾発砲をおこなった。今回の問題が長期化し、さらに少なくない市民がデモを支持し続けているそもそもの原因も、6月12日から香港警察がおこなってきた過剰な暴力行使である。
もっとも、勇武派もレンガや火炎瓶の投擲でかなり過激に対抗している。周囲が暗くなると強力なレーザーポインターがいくつも登場し、警官たちの目を狙いはじめた。前線で守りつつ反撃する者、中層で投石用に路面の敷石を砕く者、それを運ぶ者、前進や撤退を示す作戦旗を出す者、後方で水や物資をリレーする者……と、目を見張るほど鮮やかな役割分担だ。