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逃亡犯条例撤回 「こいつら暴徒だわ」香港デモ隊の“醜い真実”をあえて書く――2019 BEST5

2019香港デモ 現地ルポ#1

2020/01/06

genre : ニュース, 国際

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人民解放軍が「来ない」本当の理由

 今回の香港での抗議運動は、明確なリーダーや中心となる組織が存在せず、人々はネットの呼びかけで集まっている。デモ隊の装備などもほとんどは市民の募金によるとされる。

 それどころか、デモ隊が目標として掲げる、逃亡犯条例の完全撤回をはじめとした「五大要求」も、(穏健派の民間人権陣線の主張がたたき台にはなっているが)最終的には参加者の間でなんとなく合意されたものだ。全体戦略も個々の現場での戦術も、その場にいる人間の機転によって、ある意味いきあたりばったりで決定されている。

31日夕方以降の勇武派と警官隊との衝突。煙は催涙ガスである

 だが、約80日間の闘争で鍛え抜かれた勇武派の部隊は、前進・後退・転進・バリケード構築と、もはやヘタな小国の軍隊以上の統率ぶりである。勇武派の若者には中高生や比較的学歴が低い無職・ブルーカラー層の人も多いが、基礎教育の水準が高い香港人たちは、もとが「烏合の衆」でもキッチリと組織的に動けてしまう。

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 もっとも権力のパワーは圧倒的だ。デモ参加者が湾仔のヘネシー・ロードに建設した巨大なバリケードは、あっという間に突破された。警官隊がちょっと本気を出して催涙弾やビーンバッグ弾を何発かブチ込めば、勇武派といえども後退するしかない。

 個々の衝突局面では、香港警察の火力で充分に制圧できている。デモの鎮圧に中国の人民解放軍や武装警察が投入されることはまずないだろう。政治的なハードルの高さ以前に、そこまでの戦力の投入は不必要だからだ(現在、香港警察が最も手を焼いているのは個々の衝突に勝てないことではなく、街のあちこちでゲリラ的に蜂起や騒ぎが発生することである)。

火炎瓶に群がる世界のマスコミ

 私は過去、平和的な台湾のヒマワリ学運(2014年)の取材経験はあるが、戦場や暴動現場を取材した経験はない。なので、最初に銃声を聞いたときは恐ろしさで震え上がった。肌は催涙ガスのせいでヒリヒリと痛く、防毒マスクがすこしでもズレれば苦しくて仕方がない。だが、やや時間が経って戦線がヘネシー・ロードまで後退する頃には認識をあらためた。

「少なくとも、今日この場で死ぬ人間はいない。自分も絶対に安全だ」

 理由は世界各国のマスコミ関係者が異常なほど大量にいることだった。揃って蛍光ベストを着ているので認識は容易である。衝突の場面によっては〔警察1:マスコミ1:勇武派2〕くらいの人数比になっている。こんな状況では、警察側がデモ隊に無茶な危害を加えることは不可能に近い。