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 いっぽう、当然ながら中国メディアの方針はその真逆である。彼らは香港人がなぜ逃亡犯条例の改正案に怒ったか、中国がなぜ近年の香港の若者から嫌われているかは伝えないが、「暴徒」の振る舞いや警官への暴行(ニセ情報を含む)といった非人道的な行為は詳細に報じている。

最前線に向けて水などの物資をリレーする勇武派の後衛部隊(上)、勇武派に加わっている10代なかばとみられる少女(下2枚)。8月31日撮影

 彼らは報道のなかで、平和的な市民デモの参加者もすべて「暴乱分子」や「香港独立分子」と決めつけて罵倒し、今回の抗議運動への直接的な影響力をほぼ持たないジョシュア・ウォンや周庭らの有名な活動家を「香港独立運動の親玉」と激しく非難するのだ。

 私のスマホには毎日のように、中国人の友人から香港デモの「真相」と称するプロパガンダ記事のURLが送られてくる。対してツイッターを開くと、ロイターやAPFの衝撃的な写真があふれ、ちょっと香港デモに不都合な話を投稿しただけで、運動シンパの日本語話者から「フェイクだ!」と叱られる。はっきり言って、非常に面倒くさい事件である。

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21世紀のプロパガンダ・ウォー

 特に8月以降の香港デモは、すでに逃亡犯条例改正案の撤回問題はもちろん、香港人自身の権利要求の場としての意味付けすら徐々に薄れはじめている。替わって顔をのぞかせているのは、米・英・欧の西側自由主義陣営と、香港政府の裏側にいる北京の中国政府とが、お互いに事実の隠蔽と印象操作を繰り返しながらメディアを使って殴り合う熾烈なプロパガンダ・ウォーだ。

 いまや香港のデモ隊と警官隊は、西側自由主義陣営と専制中国による21世紀型の代理戦争の兵士に変わっている。もっとも、香港のデモ隊は欧米勢力の単なる駒には甘んじていない。むしろ、彼ら自身がかなり積極的にプロパガンダを駆使して情報戦を戦い、欧米と中国の双方を翻弄している感すらある。

 ここでデモ隊が積極的におこなっているのは、西側のメディアに「報道映え」する写真をできるだけ撮らせること。そして、自陣営に不利な印象を与える「暴徒」的な数多くの悪行の実態を、デマの上書きを繰り返すことで真偽不明の情報に変えてしまう情報工作だ。

すでに制圧された湾仔の路上に配備されていた警官隊。香港警察側も精鋭部隊は人手不足らしく、拠点確保には2線級の部隊を投入しているようだ

 たとえば31日の衝突直後、勇武派が多数の火炎瓶を投げていたことに非難の声が出た。すると間もなく、それは警察側の工作員の仕業だとする写真付きの検証情報が流されたが、後にこの情報自体がデマ(=「工作員」の装備がただのエアガン)であることが判明した。

 8月24日に九龍半島東部の観塘で起きた衝突でも、本来はデモ隊が投げた火炎瓶をめぐり似たようなデマ合戦が発生し、事態がウヤムヤになっている。

“セルフ戦争広告代理店”

 紛争とプロパガンダといえば、1990年代なかばのボスニア紛争が有名だ(高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店』参照)。ただ、20世紀末にアメリカのPR会社を味方につけて対セルビアの国際世論戦を制した主体は、ボスニア・ヘルツェゴビナという「政府」だった。