以前は檜原村で営業していたのだという。東青梅のさらに奥、東京都唯一の村である。かの地で開店から2年ほどを過ごし、そののちここへ移って四十数年が経過した。
檜原村を離れた理由を探りたかったので、「それはすごいですねぇ」と話題を戻そうとしたのだが、はるよしさんのトークはすでに暴走機関車状態である。
ラーメンのスープは“あり得ないほど微妙”!?
「荻窪から来たんじゃ、なにか(別に)出そう」
「いやいや、そんなのいいですよ」
そこで、突然入ってくる友子さん。
「青梅線に乗った途端に、なんか田舎を感じるでしょ」
「そうですね。立川過ぎると、なんか」
「そう。立川過ぎるとね」
ふたたび、はるよしさんが加わる。
「ご飯を少しね、ご飯がおいしいんだよ。せっかく来たんだから、やってみて」
「ありがとうございます」
「いや、そんなもんだよ」
どんなもんだかわからないし、私を含め全員が違うことを話している。なのに、3人の噛み合わない会話が、ジャズのインプロヴィゼイション(即興演奏)のように不思議なグルーヴ感を生み出している(ようにも思える)。
しかも、はるよしさんは話を続けながらも決して調理の手を休めない。横目でチラ見してみても、ラーメンのスープに力を注いでいることがわかる。
「うちのはスープは微妙だから。微妙な味を出すの。微妙なんですよ。すごい微妙なんですよ。あり得ないほど」
「手間がかかってるんですね」
「手間かかってるよ。大変なことですよ。スープはすごい技術を使うの」
「出汁はなにで取ってるんですか?」
「ハート。……きょうは特においしいわ。うまい。いま、味見したら、うまみバッチリです」
コクのある上品なスープを堪能
うまみバッチリのタンメンが食べられると思ったら……いや、食べられたのだが、なぜか自動的に焼肉定食まで出てきた。
「これ、サービス。だって荻窪から来たんじゃさ」
「こんなに食べられるかなあ」
「食べてみな。焼肉、すごいおいしいの。でも、味がわかるように、まずタンメンから先にね。焼肉は味が濃いから。いや、タンメンは薄味だよ」
スープをひとくち飲んでみて、ことばの射撃砲がハッタリではないことを実感する。スッキリしているのに適度なコクもあり、とても上品なスープなのだ。
「すごいおいしいだろ? 考えらんないぐらい。ねえ、あり得ないスープでしょ。全然違うんだよ。これ、レモンがいっぱい入ってるんだよ。自分で考えたの」
「焼肉、食べてごらん、途中で。焼肉もうまいよ。うまいでしょ(笑)。キャベツにかかってるドレッシングもうまいよってよく言われる。自家製だよ。ドレッシングも自家製。ぬかみそもうちのおばちゃんが漬けてるの」
「おしんこ、おいしいですね」
「おいしいでしょ、おしんこも。こんなの出すとこないよ、いま(笑)。来た甲斐があったでしょ(笑)」