売れない漫画家・英雄(ひでお)の鬱屈した日常を描いた“漫画家漫画”……と思いきや、物語はまさかのゾンビパニックものへと変容。コミックス1巻分を投じた見事な仕掛けで世間をあっと言わせた『アイアムアヒーロー』が今年、3月に発売された22巻をもって完結した。単行本の累計売上は800万部を突破。さらに昨年には大泉洋主演で映画化もされた大ヒット作である。連載開始は2009年。足掛け9年にわたって英雄《ヒーロー》の物語を紡いできた花沢健吾さんには今、どんな想いが去来しているのだろう。

「結局、主人公は主人公じゃなかったのかなって。本当の主役はどこかで大活躍していて、その時たまたまカメラのピントが合ってしまったのが脇役の英雄だった、そんな作品だったと思っています」

 ヒーローの名を冠した主役でありながら、立ち位置はあくまでモブキャラだったという英雄。その見た目は花沢さんそっくりであり、“自己投影濃度”の高さも話題となった。

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「自分をかなり反映したキャラだった分、連載を重ねるごとに僕自身も成長しないと、英雄に感情を乗せられなかったんです。でも最後まで僕にあんまり成長がなかったので、ラストになっても英雄にわかりやすいヒーロー像を背負わせることはできませんでしたね。1巻と最終巻の違いといえば、ハゲたことくらいかも」

 ZQN(ゾキュン)と呼ばれるゾンビたちが世界中で跋扈するスペクタクルな物語が、コンプレックスや嫉妬といった極めて個人的な感情によって動いていく“花沢節”に度肝を抜かれた人も多いはず。

©花沢健吾/小学館

「最初から俯瞰で物語を作りたくなかったんです。だから官僚といった上の立場の人たちが活躍する『シン・ゴジラ』みたいな作品は絶対にできないですね。僕がやるとものすごく嘘くさくなってしまうし、その嘘くささに自分自身がしんどくなってしまうんです」

 ゾンビという大きな嘘を描くからこそ、リアルにこだわり続けたという花沢さん。長期連載3作目となった本作で掴んだ手応えを聞くと、意外な答えが返ってきた。

「お金の面でいえば確かに助かりました。これまで赤字続きで編集さんがお金を貸してくれなければやっていけない状況だったので、そういった意味ではようやく本当の漫画家になれた気がします。その反面、連載が終わってしまえばその作品は巣立っていってしまったもので、もう自分とはあまり関係がない。だからこそまたすぐ次の勝負に出ないといけないところがこの業界の厳しさでもあり、面白さでもあるのかなと。でもとりあえず今はゆっくりして、インプットに努めたいです。実際に経験しないと自信を持って描けないタイプなんで」

はなざわけんご/1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年、ビッグコミックスピリッツ(小学館)の連載『ルサンチマン』でデビュー。05~08年にかけて、同誌で『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を連載し、非モテ男性ファンから熱い支持を獲得。『アイアムアヒーロー』は連載中の16年に映画化された。

INFORMATION

『アイアムアヒーロー』22集(完結)
小学館より発売中

アイアムアヒーロー 22 (ビッグコミックス)

花沢 健吾(著)

小学館
2017年3月30日 発売

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