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「中国人差別」を「学歴差別」で殴る

 客観的な事実としてはおおむねその通りだろう。事実、少なくとも11月中旬以降の大澤昇平氏の一連のツイート内容からは教養の「き」の字も感じられない。

 また古谷経衡氏がすでに記事中で指摘したように、大澤氏は歴史をはじめとした文系分野の基礎知識が高校生レベルにすら達しておらず、そのこともTwitterでポリティカル・コレクトネスを無視した暴言を連発する一因になったと思われる。

 だが、それはそれとして、伊東乾氏の文章も読んで心がざわつく。なぜなら東大に一般入試で入学しなかった大澤氏を「無教養」と切り捨てる伊東氏は、学部・大学院ともに東大の生え抜きで、東京都生まれの武蔵高校出身という「東大生の純血種」のような存在なのだ。

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©iStock.com

 さらに伊東氏は東大学術博士号を持ついっぽうで著名な作曲家でもある(=それだけの教育・文化資本を持つ社会階層の出身者だということだ)。くだんの『JBPress』の文章から、「東大王朝」の門閥貴族が塞外の夷狄を見下すかのような冷ややかな目線を感じ取るのは私だけではあるまい。中国人への差別ツイートを糾弾する当事者が、別種の学歴差別意識を振りかざして大澤氏を殴っていると言えばさすがに言い過ぎだろうか?

 ちなみに高専出身の大澤氏の生まれ故郷は福島県いわき市の漁港の近所で、著書によれば実家は「中流のやや貧困層より」だったそうである。

「残念に思います、松尾」

 Wikipediaの不毛な編集合戦や伊東乾氏の冷淡な言説などからは、ある想像も浮かぶ。高専・筑波大という外様の立場から東大院(博士課程)に進学してからの大澤氏は、これまでにも彼の「学歴ロンダリング」を見下す東大生え抜きイデオロギーの持ち主たちから有形無形の蔑視を受け続け、人格をこじらせてきたのではないかということだ。

 大澤氏が著書や(本人は関与を否定しているが)Wikipedia記事において、日本の人工知能学界におけるトップランナー・松尾豊氏との関係を過度に強調しているのも、「学歴ロンダリング」という東大関係者だけに認識される負い目を覆い隠すために、より高い価値を持つ別の権威にすがったと考えれば納得しやすい。

 もっとも、大澤氏が松尾研において工学博士号を取得したことは確かだ。彼はただ自己愛とルサンチマンが強すぎて感情の抑制能力が低く、文系の基礎教養に欠けているだけで、少なくとも専門分野では「東大生え抜き」組よりも優秀な部分もある若手研究者だったに違いない。

 私はくだんのツイート内容にはまったく同意しないのだが、大澤氏がイキりすぎて「ネトウヨ2.0」に覚醒していった経緯については、一抹の同情と憐憫も覚える。いじめられっ子が運良く成功の果実を手にして鼻息が荒くなり、墓穴を掘って取り返しのつかない事態を引き起こす構図は、昨今の中国政府の対アメリカ外交にも通じる悲しいパターンなのである。

……最後に、『文春オンライン』編集部が大澤氏の心の師である松尾豊氏にメール取材をおこなった際の回答文を紹介して、この記事を終えたい。

“ご連絡ありがとうございます。
差別的な発言については残念に思います。
在学時に特に差別的な言動やエリート主義的な振る舞いがあったようには思いません。
よろしくお願いいたします。

松尾”