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特集2019年 忘れられない「名言・迷言・珍言」

東大最年少准教授が“ネトウヨ2.0”に覚醒した理由――学歴ロンダリング差別の犠牲者か?

東大最年少准教授が“ネトウヨ2.0”に覚醒した理由――学歴ロンダリング差別の犠牲者か?

2019/12/28
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 これらを受けて、その後の大澤氏は東大関係者を名指しで批判し、荒ぶりツイートを再開するようになった。彼が「左翼」「反日」といった一部のネット界隈でウケのいいロジックを多用したことで、そうした単語を使った攻撃的な物言いを好む新たなファン層も形成されはじめた。

 必死の闘争が功を奏し、やがて上念司氏や有本香氏など保守論壇業界の大物たちが大澤氏に好意的な態度を表明。今後の大澤氏はおそらく、慢性的な若手不足にあえぐ保守論壇のニュースターとして、ネット上の保守アカウントたちの称賛を浴びながら第二のキャリアを築いていくのではないかと思われる。

「意外とちゃんとした」著書の妙なこだわり

 大澤昇平氏はなぜ深い沼に引きずり込まれてしまったのか。すでに評論家の古谷経衡氏が「《東大特任准教授ヘイト炎上》『30代アカデミック男性はなぜイキるのか』」という記事を発表しているが、私の視点からも原因を分析してみたい。

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 結論を先に書けば、大澤氏の「イキり自爆」の背景には、彼がこれまでに周囲の東大関係者から継続的に受けてきたかと思われる根深い差別と、それによって彼の心のなかに形成された猛烈なルサンチマンが関係していると思われる。

©iStock.com

 大澤氏の著書『AI救国論』を実際に読むと(こう言っては失礼だが)意外とちゃんと書かれた本であり、AIテクノロジーの面白さと重要性、それをビジネスや社会デザインに結びつけることの必要性を十分に感じ取れる。11月中旬以降のTwitterにおける乱暴な言葉づかいとは異なり、大澤氏が少なくとも本人の専門分野において一定水準以上の能力を持つ人材なのは間違いない。

 ただし、著書の記述のなかには本来論ずるべき内容からはやや浮き上がっているように思える、異質な要素も存在している。

 それは大澤氏の出自である「高専(高等専門学校)」学歴の有用性や、高専出身者が正規の入試合格者よりも「優秀」であること、2年次~3年次から有名大学に編入できる高専出身者が「学歴ロンダリング」の非難には当たらないことなどを声高に主張し、さらに大澤氏が東大大学院において人工知能研究の権威・松尾豊研究室に加わっていたことを再三にわたって強調している点だ。

本人がWikipediaの編集を繰り返していた?

 こうした要素はWikipediaの「大澤昇平」の項目からも感じ取れる。ページの編集履歴を確認すると、この記事は著書『AI救国論』刊行の約1週間前にあたる9月8日、ほぼ「大澤昇平」のみを編集しているIPアドレス「60.125.48.246」によって新規作成されたものだ。同じユーザーからは同日中に合計12回の編集がなされた。

 さらに翌9日にも、東京大学に割り当てられたIPアドレス「130.69.198.191」(こちらもほぼ「大澤昇平」の関連項目のみを編集している)によって合計34回ほどの編集が繰り返された。その後も数日間、「大澤昇平」記事だけを複数回編集した同一IPによる編集履歴がいくつも確認できる。

※大澤昇平氏の著書刊行前に項目が作成されたWikipedia記事の、初期の編集履歴。ほとんどが同一のIPアカウントによって作られている。

 記事作成のタイミングや更新頻度、この時点では関係者しか知らなかったはずの内容の書き込み(後述)から判断して、大澤氏本人かごく近い人物が記事作成と編集を手がけた可能性はかなり高いとみていいだろう(一応書いておけば、大澤氏は9月9日16:26:44付けのツイートで「いつの間にか小生の Wiki が爆誕してた」と投稿しており、本人の関与を否定しているが)。

 もっとも、本人や利害関係者がWikipediaの記事を作成する行為は、出版業界では(担当編集者による作成を含めて)ある程度は多く見られるようだ。サイト内ルールでは推奨されていない振る舞いとはいえ、バレるとちょっとカッコが悪いだけで別に違法行為というわけではない