「練習がこれだけ試合に直結するなんて……」
この夜、選手たちの集中力は最高レベルに達していた。この試合の「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた福岡はこう話す。
「練習で取り組んでいたことがすべて出せたんです。もう、信じられないほど。最初のマツ(松島)のトライは、僕が左手でオフロードパスを出して生まれたものですが、これはこの1年間集中的に取り組んできたスキルでした。3つ目のトライは、ラファエレのゴロキックを僕がトップスピードで捕って、そのままトライしたんですが、これもずっとスピードを落とさずに捕球する練習をしていました。そして後半、僕が相手のボールをかき出して、そのまま捕球して走り切ってのトライは、合宿でボールをかき出す練習を何度もやっていたんですよ。練習がこれだけ試合に直結するなんて、なかなかないことです」
福岡の超人的な活躍とともに印象的だったのは、一糸乱れぬディフェンスだった。必死の反撃を試みるスコットランドに対して、日本は最後まで防御網に破綻を来すことはなかった。
防御ラインに並んだ選手が、それぞれ横の選手とコミュニケーションを取り、「リンク」をしっかりと作り、タックルに刺さった。
2年前には空虚に聞こえていた「ONE TEAM」という言葉が現実のものとなり、日本は世界に誇るラグビーを見せ、そして勝った。
代表31名の選手のうち、15人までが海外出身の選手で占められた日本代表。異なるバックグラウンドを持つ人間が、大きな成果を挙げられたのは、なぜだったのか。
リーチが振り返る「ONE TEAM」の本質
12月22日、大阪の履正社高校で行われたトークイベントで、私はリーチの相手を務め、ONE TEAMの本質について改めて尋ねてみた。
「日本の代表なのだから、やっぱり日本の文化を表現しているべきです。海外の指導者が日本にやってきて、自国のスタイルをそのまま導入しようとするとうまくいかないと思います。その点、日本代表の選手たちはレセプティブ(receptive)、受容性が高かった。バックグラウンドの違う相手を受け入れるところからチーム作りはスタートして、最後は全員がジェイミーが立てた戦略を100パーセント信じることが出来たと思います」
10月13日、スコットランド戦での記者会見で、私はリーチの発言を書き取っていた。
「キャプテンとして、このチームを誇りに思います」
ONE TEAMの完成に至る道には、山があり谷があった。
平坦な道を選ばなかった選手、スタッフが誇り高きチームを作り、歴史を変えたのである。