小田急電鉄はいま、新型通勤電車5000形の試験運転を実施している。2019年11月11日に報道公開され、旧年中の試運転は主に夜間だった。2020年1月からは日中の試運転も始まり、鉄道ファンには注目の的だ。沿線の人々も見慣れない電車に気づいたことだろう。
前面形状は流線型で、地下鉄乗り入れをしないため非常用扉はない。左右側面の銀色素地が張りだして、ブラックでまとめられた乗務員室まわりの裾を絞っている。小田急の従来の通勤電車としては新しい形だ。側面を見ると従来の青い帯に加えて、水色の帯が追加されている。なるほど、ひと目で新車とわかるデザインだ。
新型車両の「細い顎」を見ると「またこの顔か」
しかし、近年に登場した各社の新型車両も似たような「顔」をしている。東急電鉄田園都市線の2020系、都営地下鉄浅草線5500形、京成電鉄3100形と共通設計の新京成電鉄80000形、名古屋鉄道9500系、広島電鉄5200形など。黒い顔のアゴを明るい色で絞っていく。新型車両の「細い顎」を見ると「またこの顔か」と思う。側面の帯が2本になったと言っても、そこはラッピングでどうにでもなるところだ。
もちろんそこには合理的理由があるだろう。たとえば「標準化車両」の採用だ。鉄道会社の特注品だった電車は、車体や機器の共通化で量産メリットを発揮し、コスト削減、保守情報の共有が可能になる。JR東日本系列の大手鉄道車両製造会社「総合車両製作所」は、ステンレス車体の構造、インテリア、機器システムの共通化に取り組んでいる。この一連の仕様に「サスティナ」というブランド名を与えた。ただし「顔」については他の鉄道車両製造会社も似たようなデザインで作っている。「細い顎」は流行とも言えそうだ。
小田急らしさはどこにある?
共通部分が多ければ、必然的に似た車体になる。それでも相模鉄道の12000系や山手線の新型E235系はサスティナを採用しつつ強烈な個性を持ち、鉄道ファンではない人もざわつかせた。その一方、小田急の新型電車5000系は、サスティナではないにもかかわらず、どこかで見たような顔だ。ロマンスカーのデザインは斬新なだけに、ちょっぴり残念だ。
「標準化車両の採用が進む中で、鉄道会社の個性はどこに表れるか」
その疑問を素直に小田急電鉄に投げかけたところ、実物を見ながら教えていただいた。車体色はかつての小田急のように、白(アイボリー)に青帯というアイデアも出たそうだ。採用されなかった理由は聞かなくてもわかる。ステンレス車体はもともと「塗装しなくても腐食に強い」という特長がある。塗装やラッピングは余計な処理だ。コストアップと重量増加、環境負荷増につながる。それに、昭和生まれの記憶にある白地に青帯の電車は8000形を残すのみで、いまの小田急は銀色に青帯で親しまれている。