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連載この鉄道がすごい

複々線化の小田急が投入する新型通勤電車5000形。そこにある「らしさ」とは

電車の標準化時代、「個性」はどこに?

2020/01/20
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立ち客の間を通り抜けやすくなった

 5000形の小田急らしさは「室内の広さ」だ。2000形以来25年ぶりの拡幅車体を採用し、車体幅を小田急線の車両限界いっぱいの2900mmとした。10両編成の定員(椅子+吊り手)は3000形と同じ1528名だから、拡幅されたぶん、ゆったりとしている。車体にレーザー溶接のモノコック構造を採用したため、ステンレス製拡幅車体でも真四角な車両と同じ車体強度を保つ。この丸みの部分にロングシートの座席がある。座席の向かい合わせ先端の距離が80mmほど広がった。乗客がすべての座席に座り、すべての吊革につかまった場合でも、立ち客の間を通り抜けやすくなったという。

 室内の広さを演出するため、配色も工夫している。ドアと座席の仕切り、荷棚、車両間の通路のドアは強化ガラスを採用して見通しをよくした。床は木目調の塩化ビニール製のシートを採用し、座席は明るいオレンジ、吊り手も淡いオレンジ、壁と天井は白でまとめた。全体的に下から上へと明るくグラデーションしている。

床には木目調の塩化ビニール製のシートを採用。自宅のような雰囲気に
照明には平型LEDを使用

 照明も直管蛍光灯タイプから平型LEDとし、天井をスッキリ見せている。その天井には小田急の通勤電車で初めてパナソニックの空気清浄器を搭載した。1両につき8カ所。車内浄化のほか、季節の変わり目に空調機から発生するカビ臭さを除去するためだという。

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帯の色のひみつ

 車両貫通路の扉は他国の地下鉄火災事故の教訓から「常に自動的に閉じる」仕様とした。扉の重みで閉じる仕組みのため、開けようとすれば重くなる。そこで、ノブを引いたときにテコの原理で扉を押し出す力を助ける。従来の非常ドアコックは座席の下にあったけれども、目立つドア上に移動した。しかし、それでは背の低い人は届かない。そこで、座席の横にステップを作り、そこに足をかければ手が届くようにした。言われてみないとわからない「5000形トリビア」だ。

 ドア横には空間を作らない方針だ。理由は2つ。ひとつは同業他社よりお客様ひとりあたりの移動距離が長いため、着席数を増やしたい。もうひとつは、通勤車両でときどき話題になる「ドア横から動かない人」対策だ。そこにスペースを取れば人が滞留するため、むしろ塞いでしまおうという考え方。さらに、戸袋に荷物を挟む事故を防ぐため、このあたりからお客さんを離したい。手すりの位置も在来車より内側に約10ミリ離している。

ドア横にはスペースがない
車体の上部にも特徴がある

 客室の大きな窓のほとんどに黒い柱がある。窓を開くために柱をつけている。せっかく大きくした開口部だけど、停電で停車した時の換気のためだから仕方ない。これだけの開口部すべてを開く窓にはできないという。他社では開く窓と開かない窓を交互に配置しているけれども、小田急はまだ混雑率が高いため、車いす・ベビーカースペース部以外の窓を開けるようにした。そして、窓を開けるために手をかける部分は窓の外側にもある。駅員が湿気で曇った窓を開閉できるように。乗客同士では遠慮しがちだし、座席の上では立ち客の手が届かないこともあるからだ。これは在来車のリニューアル工事でも取り付けているそうだ。