広報部門が設計チームと綿密に連絡を取り合う理由
車掌さんの意見をとりいれて、運転席の背後の壁に仕業表のホルダーを設けた。仕業表は乗務員が担当する各列車のスケジュール表だ。運転士用は運転席から見える場所にあるけれども、いままで車掌用はなかった。車掌さんたちは進行方向に向いているから、運転士用のホルダーにセットすると、確認するたびに振り向かなくてはいけない。それでは具合が悪いので、見やすいところに置いておくと、動いたり、風で飛んだりする。そこで、車掌さんが窓を開けて前方を確認しているときもすぐに見られる場所にホルダーを設置した。
そのほか、女性や小柄な乗務員も増えているため、放送機器の位置を見直すなどの配慮が行われている。成人男女の90%の体格を再現できる人体モデルを使って設計した。小田急電鉄では乗務員などが所属する運転部門と車両部門が同じ部署で、運転車両部となっている。
また、新型車両を設計する担当は6~7人のチームが主体となる中で、本線で20年以上の乗務経験を積んだ人材が異動してくる。新型車両には業務環境の改善も織り込まれる仕組みだ。また、広報部門や駅を管轄する部門とも綿密に連絡を取り合い、お客様目線を反映する。電車のデザインは小田急のイメージそのものだからだ。
新旧交代のカギはホームドア対応
2本の横帯は複々線化のイメージも意識したという。しかし、5000形を新造した理由は複々線化による増発ではなく、ホームドア対応など新技術への移行だ。
今後の車両計画もホームドア、及びTASC(Train Automatic Stop-position Controller=定位置停止装置)の搭載がかかわる。小田急の古参車両といえば、かつての標準色、白地に青帯の8000形だ。しかし、すぐにすべての8000形が淘汰されるわけではない。TASCは電子制御の車両と親和性が高く、アナログ制御の電車には搭載しにくい。簡単に言うと、ハンドルが1本の電車には取り付けやすく、ハンドルが2本の電車には取り付けにくい。そこで、まずは8000形のうち、ハンドル2本タイプが廃車となる。他の8000形はリニューアル工事でワンハンドルになったから、しばらくは走る。
8000形と同時進行で廃車される編成は1000形の一部で、ワイドドア仕様になっている車両だ。混雑時の乗降性を高めるために開口部を広げ、従来の1300ミリから2000ミリにしたけれども、結果として、ドア横に滞留する人が増えたため、1600ミリしかドアが開かないように改造された。その教訓が5000形のドア横スペースに反映されたわけだ。
5000形は現在、1編成10両が試験中で、3月下旬に営業運転を開始する。2020年には5編成50両が加わる。それと交代して、8000形と1000形の一部が消えていくことになる。
小田急電鉄の通勤車両の新形式は2007年の4000形以来12年ぶりだ。この間に技術も進歩し、デザインの考え方も変わった。機器類は低騒音化され、電力効率も高められた。デザイン面ではホームドア、ユニバーサルデザインの導入が進んだ。これらは都市鉄道共通の課題であるけれども、そのなかでも5000形には「小田急電鉄の流儀」がしっかりと息づいている。
写真=杉山秀樹/文藝春秋