「ノネコは野生化した猫だから凶暴」なのか
また、奄美大島のノネコ譲渡認定人になるための講習会では「ノネコは野生化した猫だから凶暴で、どんな病気が潜んでいるかわからない」という説明を受ける。齊藤氏は「そんなことはない。誰でも飼える」と主張する。私も実際に猫を見て、ノネコと普通の猫の違いがわからなかった。凶暴という点でいえば、東京の路上で時折見かける野良猫のほうがギャーッと叫んでよほど怖い。服部氏は「印象操作ではないか」と言う。
「奄美大島で殺処分の対象として捕獲されている猫たちは皆、人なれしていて甘えん坊です。それなのに『アマミノクロウサギらの希少種を捕食するノネコ』などと題し、ノネコとして殺処分が行われても致し方ないという報道を見ると、悲しみで胸がつぶれそうになります。
真実とは人から聞かされた言葉ではなく、奄美の地域に足を踏み入れ、ノネコと呼ばれた猫と向き合った人が伝えていかなければならないと感じました」
服部氏は今春、奄美の猫を救うために「保護猫カフェ」を立ち上げる。奄美大島で捕獲された猫を、獣医師による診察を経て、この保護猫カフェで公開し、引き取り手がいれば有料で譲っていくという。カフェには十数個のケージを置く予定だ。
開業費としてクラウドファンディングで300万を募ると、1か月もしないうちにその額を達成した。しかし月20万円の家賃やテナント契約金、内装費などを含めると開業資金として圧倒的に足りない。服部氏は個人で銀行から500万の融資を受けた。月に7万円、6年間で返済するという計画。
「命は、取り返しがつかない」
「美容室を経営しているので、とりあえず7万円はその利益から返済します。それでも難しくなったら私がもっと働けばいい」
「どうして、そこまで……」という私の言葉を封じるように、服部氏が続けて言う。
「お金は人が働けばどうにかなる。けれども、命は、取り返しがつかない」
“怖い猫”は人のためにいなくなったほうがいいのか。服部氏の胸にはいつもその疑問がある。違う、殺処分からは何も生まれない、と繰り返し言う。そもそも怖い猫なんていない。
人と動物の共生する社会の実現を目指す動物愛護法。同法35条4項に所有者の判明しない猫について、飼い主を募集して譲渡に努めると明記され、ノネコ管理計画にも「所有者が判明しないネコの譲渡に努める」とある。同法44条2項では給餌給水をしないこと、健康と安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、負傷した動物の適切な保護を行わないことを動物虐待罪として100万円以下の罰金を科している。
ずさんな術後の管理によって苦しみながら死亡したり、捕獲ワナで傷ついたり、24時間餌や水がもらえないかもしれない、そして生まれ育った地から遠く離れた場所に移住しなければいけない奄美大島の猫たち。譲渡認定人14人以外には猫が“生存”していたことさえも秘密にされている。
奄美大島は今年、世界自然遺産登録を目指す地だ。その自然や希少種を守るためだけに「共生」への努力を絶ってはいけない。