高野 まず自分が泳げないとダメですからね。昔は、ベテランにはベテランの将棋があるといって、荒れた海での将棋を若手相手に指すこともありましたが、藤井くんには、そういった戦いが通用しない。
――海での戦いになったら勝てないと。
高野 そう。藤井くんの対応能力の高さを見ると、まず勝てないでしょう。だから角換わりでも、まず組み合うほうがいいと判断する。またトップの棋士の場合は、これからもずっと当たりますからね。相手の得意戦法から逃げていられないんです。1回勝負ならいいけど、ずっと当たるので、逃げていられない。
対藤井聡太戦への研究についての話に及ぶと、勝負師の顔をのぞかせて話す高野六段。「今までにないほど勉強している」という対藤井聡太戦へ向けての研究が、今期の好調の一因になっていることは間違いないだろう。
当日はいいスーツを着て行こうかなと
さて2月4日の対局は、関西将棋会館で行われる。その日のスケジュールと、意気込みなどを最後にうかがった。
――当日は、どういったスケジュールなんですか?
高野 大阪での対局なので、前日に大阪入りして、近くのホテルに泊まります。それで対局後にもう1泊して帰る感じですね。
――藤井聡太七段と今まで話したことは?
高野 一回もないです。
――ないんですか(笑)。
高野 一回もない。見たことはありますよ。「あ、藤井くんだ」って(笑)。だから、藤井くんと当たることが決まったときは、他の棋士から「うらやましい!」と何度も言われましたよ。それだけ多くの棋士が認める存在なんです。
――対局前は、挨拶だけですか?
高野 そうですね。「おはようございます」で対局。
――では対局が終わって感想戦のとき、ちょっと話すくらい?
高野 そうですね。
――終わって「これからどう?」は?
高野 ないでしょう(笑)。もし豊川さんが大阪にいて「どう?」って声かけてもらったら、「待ってました!」とついていきますが(笑)。
――ははは(笑)。あと当日心がけることなどありますか。
高野 いいスーツ着て行こうかなと(笑)。今後これだけの注目を集める対局はそうそうないでしょうからね。
――そういえば教室(高野六段は、世田谷区などで子ども教室を長年開催している)の子どもたちには、藤井聡太と対戦することは伝えているんですか?
高野 対局前の土曜日に教室があるので、そこで「見るように」と伝えるつもりです。子どもたちのなかには、私が現役の棋士だと思っていない子もいる可能性が高いので(笑)。
◆ ◆ ◆
高野六段は、今回、自分が藤井聡太との初対戦を控えて、初めて「みんなこれくらい気合を入れていたんだ」と感じたという。「藤井聡太戦には、いい将棋が多いですよね。あれは対戦相手が研究を重ねて、気合を入れて臨んでいるからなんですよ」というのは、対戦を間近にした棋士からの、実感のこもったことばだった。
将棋の棋譜は二人で作るもの。
藤井聡太戦を観るとき、対戦相手の研究やその胸の内にも思いを馳せると、いっそう対局を楽しめるのではないだろうか。
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