「できれば3名昇段であってほしい」
筆者は20年近く「三段リーグの一番長い日」を取材しているが、最終日にフリークラス昇段の可能性を持つ者がいる場合、「できれば3名昇段であってほしい」というのが、長年変わらないその場の空気であると思っている。ある者がフリークラス昇段を選ばざるを得ない結果になったとしても、それでも三段リーグに残る者が一人増えるよりは……というのが、共通した願いなのだ。
フリークラス昇段を果たせば、順位戦が指せなくとも(指せずに終わった者がこれまでいないのは前述した通りだが)、プロ棋士として他の棋戦を指すことができる。無論、報酬としての対局料も貰えるし、他の部分でも一人前のプロ棋士として扱われる。何より「三段リーグを指さずに済む」ことの大きさは、関係者の誰もがわかっているはずだ。
だが、勝負の神様は甘い顔を見せてはくれなかった。最終18回戦の勝敗は谷合●、服部○、西山○。この結果、上位2名の順位が入れ替わり、服部が1位、谷合が2位で四段昇段を果たした。昇段者2名と同星の14勝を挙げた西山は次点に終わった。
結果を知らされた西山は「また、頑張ります」という言葉を残して、将棋会館を後にした。その眼には光るものがあったという。
「個性豊かな将棋を指す、山崎先生と対局してみたい」
間もなく、新四段の記者会見が始まった。まずは1位の服部から。
「これまで、あと一歩で昇段を逃すことが多く、まだ四段昇段の実感は湧きません。これまでは昇段を意識すると余計な力が入っていたので、今日は2局ともよい将棋を指そうという意識がありました」と、振り返った。
これからの目標について問われると、「定跡にはとらわれない、個性ある将棋を指してタイトルを目指します。似ているというと怒られそうですが、やはり個性豊かな将棋を指す、山崎先生(隆之八段)と対局してみたいですね」と語る。
16回戦終了時からの心境について問われると、「特別なものはありません。西山さんについては女性というより、同じ三段として最終日を戦う存在だと思っています。17回戦で次点を獲得し、気持ちは楽になりましたが、連勝を目標としていたので、気持ちを引き締めました」。
最後に自身の三段リーグについて、「次点を取った気は悔しかったですが、それを忘れないようにやってきました。一勝の重みを感じ、成長できた2年間だったと思います」と振り返った。