「プログラミングは続けていきたい」
続いて谷合の記者会見。
「うれしいという感情しか出てきません。(前節で)次点は確定し、気持ちは楽でしたが、いつもと変わらない将棋を指そうと思っていました。最終戦を勝って締めたかったので、そこは残念です」と語る。
谷合には「東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士後期課程1年生」という肩書がある。AIを使って交通事故を防ぐ、自動車の運転支援を研究しているという。
「自分にしかできないことを探りながら、将棋界に貢献できればと思います。大学院を卒業したあとのことはまだ考えていませんが、プログラミングは続けていきたいですね」
谷合は26歳。年齢制限による奨励会退会が迫る中での昇段となった。これまでの三段リーグについては、「リーグに8年半いました。人生の3分の1で、やっとかという思いです。今期は1勝3敗というスタートでしたが、負けた相手は自分が強いと考えていた三段なので、それほど気にはしませんでした。師匠がいつも『君なら上がれる』とおっしゃって下さったのが、励みになりました」と振り返った。
また、最近ではすっかり“少数派”になった振り飛車党の谷合は、「プロとして、振り飛車の可能性を探っていきたい」と目標を述べた。
終了後に行われる恒例の打ち上げは、コロナウィルスの影響もあり、今回は行われなかった。それでも仲間が新四段の祝福に訪れる。かくして「三段リーグの一番長い日」は終わったが、服部と谷合にはこれから、真の戦いが待っている。
持ち時間をわずか12分しか使わずに……
そして2日後の3月9日。激戦の疲れをいやす暇もなく、西山は3回戦まで勝ち上がっている竜王戦6組を戦っていた。相手は大ベテランの青野照市九段である。
「14勝は立派」「フロックではできない」
リーグ終了直後にも、多くの声援が送られていたが、その言葉を聞く余裕はあったのかどうか――。
筆者は隣室で別の対局を観戦していたが、まだ2日前の痛みは癒えていないように見えた。
だが、ふたを開けてみれば、5時間の持ち時間をわずか12分しか使わずに、西山が圧倒した。気が早い話だが、ランキング戦6組で優勝したら、もっと先を言えば挑戦権を得ればどうなるのだろうか。
記者会見で西山についての言葉を求められた谷合は「西山さんとは三段リーグで指し分けか負け越しだったと思うので(谷合の2勝3敗)、上がれると思う」と答えている。
史上初の快挙は持ち越しとなったが、半年後に実現がかなうか。三段リーグで14勝を挙げた者はその後全員が四段になっている、という過去のデータもある。
そして西山だけでなく、すべての奨励会員にとって、夢の実現に向けての戦いは始まっている。全員の笑顔が見られないことはわかっていても、一人でも多くの者に喜びがある結果であって欲しいと思う。