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羽生善治―佐藤康光の“黄金カード”が163局目 記者がもっとも印象に残った対局は……

羽生善治―佐藤康光の“黄金カード”が163局目 記者がもっとも印象に残った対局は……

これで同一カード歴代単独4位に浮上した

2020/03/16
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 3月6日の竜王戦で163局目となる羽生善治九段―佐藤康光九段戦が実現した。わずか1週間前、2月27日には順位戦A級9回戦が行われ、日付を超えて午前1時すぎまで及んだ大熱戦を佐藤が制したばかりだった。同一カードとしては、これまでのタイ記録だった大山康晴十五世名人―二上達也九段戦と大山―中原誠十六世名人戦の162局を超えて、単独4位となった。

3月6日に行われた163局目の羽生―佐藤戦 ©︎相崎修司

93手と手数は短いが内容は濃密

 この日の対局の内容は、中盤で戦機を捉えた佐藤が優位に立つが、最終盤で羽生が一瞬の間隙をついて抜き去り、対佐藤戦における108勝目を挙げた。

 終局後、羽生は「今までも数多く指してきましたが、これからも少しでも上の記録に届くように頑張りたい」、佐藤は「光栄なことで、今後もいい内容の対局を積み重ねていければ」と、それぞれ語った。

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 これまでの羽生―佐藤戦で、最長手数となったのが2013年のJT将棋日本シリーズ。相振り飛車から入玉した佐藤玉を羽生が捕まえて222手で勝った一局だが、最終盤の攻防は公開対局で見ていたファンの心を打ったものだと思う。

 それと比較すると先日の竜王戦は93手と手数は短いが、内容の濃密さは負けていない。勝着とされた、最終盤に羽生が放った切り札は83手目の一着だったが、この時点ですでに120手を超えているようなイメージがあった。

将棋連盟会長の激務を果たしながら、今期も順位戦A級・竜王戦1組に残留した佐藤康光九段 ©︎相崎修司

「20云年前の竜王戦の残像が残っている」

 この一局はAbemaTVで動画中継がされていた。盤面には将棋ソフトによる期待勝率が示されている。数値が揺れ動いた終盤戦だったが、結果的には82手目の佐藤の着手が次の羽生の切り札を呼び込むことになった。感想戦で恐る恐る、ソフトが示した82手目の代替案を口にすると「ひええ、そんな手が」と両者はのけぞった。だがすぐさま意図は理解して、更なる検討が進む。

 代替案について佐藤は「20ウン年前の竜王戦の残像が残っているから、指せません」とつぶやくと、すぐに羽生は納得の意思を示した。類型が過去にあったようだが、両者にとっては昨日指した将棋かのようである。

 結論として「▲9一馬をうっかりしているのだからひどい」と佐藤は締めた。勝着とされた83手目の着手である。1時間半にわたる感想戦は時折、笑いも混じった楽しい時間だった。