「も少し眠らせろ!」午前2時まで働かされた少年たち…… 90年前の老舗書店がブラックすぎた?>から続く

少年たちが訴えた「食いたい盛りの僕らにもう少し食わせてくれ」

 3月15日付東京朝日朝刊は「時代に取残された 現在の小店員制度 市内の大小商店とも多くは 冷たい年季奉公制」の見出しで「今日における東京市内小店員の待遇はどんなものか」を伝えている。

「まず6大百貨店は従来の年季奉公的雇用制度を廃して月給制を採用して、1カ月初給20円から25円ぐらいで、寄宿舎のある所は食費として10円から13円ぐらいを差し引く。東海堂、三省堂、冨山房などの大書籍店は同様月給制を採用して、20円から25円を支給している」

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 そうした小店員の待遇について東京市少年職業係長の談話も掲載されている。

「少年といえば、食を与えて養っておくぐらいに考えていますが、実際の労働状態よりして相当待遇すべきは当然すぎるほど当然であって、現在なお求人側に年期奉公的思想を持っている者がありますが、反省していただきたいと思います。寄宿制度にしても、現在某書店のごとき状態であっては、現代と逆行したやり方で、寄宿制度をのろう結果となり、自他ともに不利益であると思います」。見出しは「飼っておく位に考えている不都合」だった。

 同日付東京日日朝刊は、前日14日に開かれたストライキ応援の争議批判演説会の模様を詳しく載せている。

「押し掛ける者は角帯、前垂れ掛けの12,3歳の争議団員や円本の宣伝法被の小僧さんたち」「会場は約200名がすし詰めで、その中には巖松堂の少女店員数名も交って、正面に懸けてある『小僧の人格権を認めろ』『外出の自由を与えろ』などのスローガンに比べてはあまりに可愛い争議団員だ。開会まず第一に岩波の中村君、続いて巖松堂の松本、田川両小僧さんが頭をかきながら『僕たちは1円の鳥打ち帽も買えないのだ』と可憐な叫びをあげる。岩波の吉村少年『食いたい盛りの僕らにもう少し食わせてくれ』などなど、泣き出しそうなものもある」

「三・一五事件」を利用して争議を解決しようとしたのか

 再び「物語岩波書店百年史」が引用した「実業之世界」の記事に戻る。

 15日、「突然真に疾風迅雷的に店主並びに支配人は西神田の私服制服二十数名の護衛の下に、午前9時ごろ、堂々と店に乗り込んできた。幹部2名がすぐに検束され、占拠を続けていた争議団は排除された。一方、少年店員は倉庫に集められ、『一裏切り者の奸言』に迷わされ、争議団からの訣別を宣言した」。

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 この点は、「岩波茂雄伝」が「16日になって岩波は店に乗り込み」と書いただけで、岩波書店に近い証言や著書には登場しない。実は前夜の演説会でも組合員ら4人が検束されていた。

「物語岩波書店百年史」も「14日午後から15日朝にかけての動きが気になる」と言う。「岩波の『日本における模範的の労資の雇用関係』を作るという約束と突然の交渉打ち切り、争議団の排除には大きな飛躍がある」。