渡辺明棋王に本田奎五段が挑戦した第45期棋王戦五番勝負は、石川県金沢市、栃木県宇都宮市、新潟県新潟市とおなじみの各地を転戦して、第4局は東京都渋谷区に戻ってきた。
東京都渋谷区と聞いて「千駄ヶ谷の将棋会館だろう」と決め付けた人はまだ甘い。竜王戦でおなじみのセルリアンタワーは渋谷区だけれども、これも違う。
恵比寿のウェスティンホテルは残念ながら目黒区であるし、かつて何度も名人戦の舞台になった羽澤ガーデンは2005年に閉められて、跡地には高級マンションが建っている。
今回の対局場は東郷神社である。
東郷神社は日露戦争において連合艦隊の司令長官を務めた東郷平八郎元帥海軍大将を祀っており、千駄ヶ谷の将棋会館から10分足らずの場所にある。とんでもハップン、歩いて10分である。
私はこの第4局の新聞観戦記を担当したので、あちらには書かないようなこぼれ話を中心に書いていこうと思う。
例によって将棋の内容にはまったく触れないつもりなので、そちらに興味がある方は棋王戦を掲載する20社の新聞、ネット中継のアーカイブなどをご覧いただきたい。
日本将棋連盟の棋王戦ページは https://www.shogi.or.jp/match/kiou/ から。
3月16日、月曜日。
千駄ヶ谷駅から外苑西通りに出て、宿泊することになっている日本青年館ホテルまで歩いていく。1泊でも3泊でも荷物の量がさほど変わらないのは、いかなるときも何かしらパンパンに詰めてしまう悪癖があるせいだろう。千駄ヶ谷駅からは15分ほど、将棋会館からは10分強の道のりである。
右にホープ軒、左に新国立競技場が見える交差点で立ち止まり、しばし体を休める。タクシー運転手御用達のホープ軒には、中学生のころに定期的に通っていた。当時研修会にいた私は千葉県の東京寄りに住んでいたのに、なぜか例会の前日に会館に泊まることが多かった。地方から出てくる正規宿泊組と一緒にホープ軒で晩御飯ということもたびたびあり、いつも率先してホープ軒を希望するのは愛知県から来ていた松尾歩少年だった。
大人になってからは、悪い(?)先輩たちと近隣の馴染みの店で朝まで飲む展開になったあとに、やけくそになってホープ軒に入る程度のお付き合いである。やけくそついでにそのままタクシーで築地に行って寿司をかっ食らう展開もあり、そうなったらもう日付が変わるあたりまで帰ることはできない。