「新型コロナウイルスに始まりコロナで終わった、 “コロナ選挙”となりました」(中道系韓国紙記者) 

 4月15日に行われた韓国の第21代国会議員選挙(総選挙)は、すべての争点が新型コロナウイルスで吹っ飛んだ。投票締め切り15分後から発表が始まった出口調査ですでに与党「共に民主党」が票をぐんぐん伸ばし、与党連合全体で総議席300議席中180議席を獲得。過半数を超えて、「歴代最大のスーパー与党」(ソウル新聞、4月16日)が誕生した。 

 4月に入り感染者数は1万人を超えたが、選挙前の10日前ほどから新規の感染者数が50人を下回る日が続いていて、「文政権は本当に運が強い」(前出記者)とも囁かれている。 

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期日前投票に並ぶ文在寅韓国大統領 ©時事通信社

支持率低迷も、新型コロナ対策で人気再燃

 昨夏から尾を引くチョグク法相辞任騒ぎや、青瓦台(大統領府)による蔚山市長選挙介入疑惑、保守系メディアからは「虐殺人事」とまで形容された政府が介入した検察人事など、与党に悪材料がなかったわけでない。年明けには文在寅大統領や与党の支持率は落ち込み、「この頃には与党へ嫌気が差した中道層の動きが見え始めていた」(世論調査会社関係者)。

 一方、脆弱といわれた野党は保守勢力を統合し、「未来統合党」として今年2月に新たにスタート。2月中旬には世論調査で「現政府を牽制するために野党候補が多数当選すべき」という声が「現政府を支援するために与党候補が多数当選しなければいけない」をわずかだが上回っていたのだが。 

 野党は文在寅大統領の中間評価として「現政権審判」を叫び、土壇場では新型コロナ感染拡大下での経済悪化を強調し「経済で命を落とすのか」とも訴えたが、有権者には響かず。逆に、「野党が審判に晒された、屈辱的な惨敗となった」(前出記者)。 

 新型コロナウイルス対策による文大統領支持は圧倒的だった。2月の最終週には42%だった文大統領の支持率は選挙直近では57%と15ポイントも劇的に上昇。支持した理由に59%の人が「新型コロナウイルス対策」を挙げている(世論調査会社「韓国ギャラップ」)。この文大統領の支持率上昇が与党の追い風になったという見方が大勢だ。 

部下の失言も現地入りで帳消しに

 新型コロナウイルス対策で最初に潮目が変わったのは2月下旬。 

 第四の都市といわれる大邱市で新興宗教「新天地イエス教会」の信徒内で爆発的な集団感染(日本でいうオーバーシュート)が発生し、大邱市と周辺地域で感染者数が怖ろしい勢いで急増した。

 2月25日には与党「共に民主党」首席スポークスマンが「大邱市と(周辺地域の)慶尚北道は最大限の封鎖処置」といった趣旨の発言をすると、大邱市からは「大邱市を見捨てるのか」と猛反発が起きた。しかし、同日、文大統領が電撃的に自ら大邱市に入り、混乱を招いたことを謝罪。翌日には首席スポークスマンが辞任した。 

スポークスマンが失言した同日、大邱市入りした文在寅韓国大統領 ©Getty Images

 そして時を同じくして、大邱市では急増する感染者に対し公共病院の病床が不足し、自宅待機していた80代の女性が亡くなったと報じられた。あわや医療崩壊かとメディアで騒がれたが、政府はその翌日には軽症者向けの入院先として企業の研修所や保養所などを確保し、医療崩壊には至らなかった。 

 完全に潮目が変わったのは3月中旬。新型コロナウイルスが欧米で猛威を振るい始め、3月11日にはWHOが「新型コロナウイルスはパンデミック」と表明したあたりから “風”は与党に有利に吹き始めた。今回、与党に票を投じたという40代の女性会社員はこう話す。