「欧米の苦戦を見て、韓国の防疫の成功を実感した」

「正直、MERS(中東呼吸器症候群。朴槿恵前大統領時代の2015年春に韓国に広がった)の時に失敗していますから、韓国の新型コロナ対策がうまくいっているのかどうか判断がつかなかったんですけど(笑)、欧米が苦戦しているのを見て、ああ、韓国政府は今回は防疫に成功したんだ、とようやく実感しました。

 これからの経済も心配ですが、まずは命あってのこと。それに韓国人にはセウォル号事故(2014年の観光船の沈没事故)のトラウマが染みついているので、もし、今、保守政権だったら命よりも先に経済や、何か別のことが優先されたのではないか。そんな思いもよぎりました」 

 一方、惨敗した野党第一党の「未来統合党」は、新型コロナウイルス対策では当初「中国からの入国禁止」を訴え、文大統領の中国への弱腰を批判。また、低迷する経済などを挙げ現政権審判論を訴え続けた。しかし、土壇場で同党候補者が「セウォル号遺族やボランティアが追悼テント内で性行為を行った」などと発言。世論からは一斉にブーイングが飛び、「未来統合党」はその5日後に発言した候補者を除名した。

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引き揚げられたセウォル号と遺族たち ©Getty Images

 遅きに失したという批判があがったが、「除名してもしなくてもあまり意味はなかった」と別の中道寄り韓国紙記者は言う。「この発言で決定的に保守はいまだに旧態依然で、弾劾された事実を受け止めず、新しいビジョンを示すこともできない、没落したイメージが刻印されましたから」。 

「このままでは、保守は日本の野党のように没落」

 今回の総選挙は、中道派の政党が不在で進歩VS保守という2大政党の闘いになった点、次期大統領選挙の前哨戦である点、そして「準連動型比例代表制」という新たな選挙制度が取り入れられた点で注目すべき選挙でもあった。ある政治評論家は言う。 

「振り返れば、朴槿恵前大統領の弾劾訴追は、すでに脆弱になっていた保守が崩れ落ちたにすぎなかったのかもしれないということです。そのことを保守派はいまだ気づいていない。保守の惨敗には、もちろん、新型コロナウイルスの影響もありましたが、明確な保守のビジョンを打ち出せず、国民の8割が賛成した大統領の弾劾訴追への反省もなく、保守は何ができるのか、何を守るのか、そういった具体的な話ができなかったことにある。

 このままでは保守は日本の野党のように完全に没落してしまう。これでは次の大統領選挙も勝ち目はまったくない」  

 次期大統領候補者として名前が挙がっていた李洛淵前国務総理と「未来統合党」の黄教安前代表はソウル市鍾路区で争ったが、李前総理が圧勝した。また、文政権を舌鋒鋭く批判し、日本では「美しすぎる野党議員」などといわれた「未来統合党」の羅ギョンウォン議員は「共に民主党」の判事出身の新人候補にあっけなく敗れた。 

ソウル近郊、坡州市の投票所の様子。1メートル間隔で並んでいる(著者提供)

 新たな選挙制度は得票率が3%でも1議席以上が確保される、少数政党にも機会を与えるという意味合いがあった。これにより少数野党は51政党と乱立。

 「共に民主党」の衛星党として市民団体を中心に作られた「共に市民党」や、「共に民主党」は距離を置いたが、進歩系としてチョグク擁護を標榜する「開かれた民主党」など反日色の強い政党が発足していた。「共に市民党」からは、慰安婦問題で市民運動の先頭に立っていた「日本軍の性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(前韓国挺身隊問題対策協議会)の尹美香同理事長が出馬し、当選している。