1ページ目から読む
3/4ページ目

司法界での優位はつづくか

 実は官僚の世界のみならず、司法の世界(特に裁判官と検事)でも過去においては東大の優位が明らかであった。司法試験に合格する人に東大出が多かったし、裁判所や検察庁の幹部にも東大出が圧倒的に多かった。この両機関ともに官僚と同等の職なので、学歴と年功が強い影響力を持ちうる組織というのは容易に想像がつく。

 戦後に限定して歴代の最高裁長官の出身校を調べると、18名いる中で東大が15名、京大が3名である。全員が旧帝国大学の出身であることもすごいが、その中でも80%強が東大出で占められるという圧倒的な強さに驚かされる。余談であるが、現在の最高裁長官は父も長官を務めている。しかも2人とも東大出である。

 なぜ裁判官の世界で東大出が出世するのか。司法の世界では頭の良さが重宝されるので、学力の勝者である東大生に打ってつけの職業だからである。さらに、過去の判例や学説をよく知っておかないと仕事ができないので、勉強好きや受験に強い人に向いている。これは検事の世界でも同様である。

ADVERTISEMENT

 

 ところがである。裁判官、検事、弁護士になる予備軍として司法試験に合格する人の学歴(法科大学院)を見ると、新しい動きがある。それは表4で示されるように、私立大の方が東大よりも合格者を多く出していることである。トップの早稲田、第2位の中央、第4位の慶応と、国立大と私立大が混在して合格者数を競っているのが現状である。なお合格率に注目すると、京大、東大、一橋大などが上位にいて、やや国立大が優勢を保っている。とはいえ、合格者数でこれだけ私立大勢が多くなれば、将来において東大が圧倒的に司法の世界での幹部を占めることはないだろう、と予想できる。

社長、役員が多いのは?

 先程、実業の世界では一橋大や慶応大の活躍が顕著であると述べたが、実は東大も多くの企業経営者(特に大企業)を生んでいた。戦前と戦後のしばらくは、東大出身者が一橋大や慶応大を凌駕していたといっても過言ではなかった。

 その理由は、かつての日本では規制が強く、ことに大企業は官庁の指導や助言の影響が大きかったからである。例えば、銀行などではMOF(大蔵省)担と呼ばれる人を指名して、大蔵省と日頃コミュニケーションを持って情報の交換やアドバイスを受けたりしていた。大蔵省の役人には圧倒的に東大出が多いので、銀行はMOF担に東大出をあてることが多く、彼らが将来的に銀行で出世しやすかったことは容易に想像がつく。さらに、企業内で重要な仕事は総務、人事、労務、企画といった管理業務であって、製造や営業という現場業務の人はさして重要視されていなかった。そこで管理的な仕事をうまくこなす東大出が企業内で出世したのである。

 しかし世は変わった。規制緩和が進んで、企業は役所にそれほどの意を配る必要がなくなった。もっと重要なことは、業界における企業間の競争、そして外国との競争が激しくなり、自社製品やサービスをどれだけ売るか、そして安くて質の高い製品やサービスをどれだけつくるかが、企業にとって死命を制するようになった。いわば現業部門の仕事のほうが、管理部門の仕事よりも重要な時代になったのである。

 そうすると頭のよい人(逆に言えば頭(ず)の高い人)よりも、そこそこ頭が良くて、体力があり、明るい性格でかつコミュニケーション能力に長けて、人との交渉をうまくできる人が企業内で重宝されるようになり、現にそういう人の営業部門や調達部門における好成績が目立つようになった。そうした人材の代表が、慶応大、一橋大の出身者なのである。

 

 表5は、このことを如実に示すものである。これはいわゆる「社長輩出率」で、上場企業の社長を出身校の卒業生数で割ったものだ。東大も第3位なので健闘はしているが、一橋と慶応の後塵を拝しているのである。