栃木県の長谷部浩平四段と愛媛県の黒田尭之四段、そして佐賀県の武富礼衣女流初段による《「県でひとりだけ棋士・女流棋士」座談会》。後半となる本稿では、棋士がいない県だからこその「地元での注目度の高さ」から聞いてみた。
「号外が出るのは、羽生さんと藤井くんと長谷部くんだけじゃない」
長谷部 三段リーグの最終日、プロ入りが決まった後に打ち上げがあったんですが、その席で理事の鈴木大介先生(九段)がネットを見て「号外が出ているよ」と教えてくださったんですよ。栃木の『下野新聞』が電子号外というのを出してくれて、鈴木先生に「棋士で号外が出るのは、羽生さんと藤井くんと長谷部くんだけじゃない」って言われました(笑)。
――地元紙の記者さんは、当日も取材されていたんですか?
長谷部 そうですね。将棋会館に詰めておられて、午前と午後の対局が終わるたびに「勝ったの?」と声をかけてもらいました。本人に直接聞くってすごいなと思いましたね(笑)。
このとき『下野新聞』が出した電子号外は《長谷部さん(宇大4年、小山)がプロ棋士に 栃木県出身者で戦後初》というタイトルで、現在でもネットで見ることができる。こういった盛り上がりは、地元に帰ってからもあったそうだ。
黒田さんも武富さんも、長谷部さんと同じように地方メディアで取り上げてもらったという。それに加えて、こんなエピソードを披露してくれた。
黒田 私の場合、地元の『愛媛新聞』が、自分の公式戦の結果をすべて紹介してくれています。
――対戦結果をすべてというのは、期待が大きいですね。
黒田 そうですね。ちょっと負けが込んでいるときは、しっかりせねばと思うのですが……。
知事とは何度もお会いしています
武富 私は、地元で祝賀会をやってもらったとき200人ほど集まっていただいたのですが、そこに佐賀県の知事も来ていただきました。それも含めて知事とは何度もお会いしています。
長谷部 これだけ知事と距離が近いというのは、棋士がひとりだけの県ならではですよね。
武富 そうですね。東京で棋士になっても、小池百合子さんとは何度も会えないでしょうからね(笑)。
長谷部 私は、支部の方が地元のホテルで祝賀会を開いてくださいました。それまであまり交流がなかったという県内の支部が、私がプロになったことで、横のつながりができたという話を聞いて嬉しかったですね。後は、小山市の市役所に表敬訪問もさせていただき、市役所にはオリンピックに出場する選手と一緒に垂れ幕も、出していただきました。
黒田 私の祝賀会には100人以上の方にご参加いただきました。全員私の知り合いもしくは地元の道場の関係者や常連さんで、地元の支えを改めて強く感じました。
都会出身の棋士と違うと感じるところ
続いては「都会出身の棋士と違うなと感じるところ」を聞いてみた。すると武富さんは「女流棋士になりたての頃は、違うなということしか感じませんでした(笑)」と笑顔で語ってくれた。
武富 もっとも異次元だなと思ったのは、都会出身の人はみんな顔が広くて、先生方と気軽に話していることですね。とにかく先生方との距離が近い。高校1年生で高校竜王戦に出たとき、糸谷哲郎竜王(当時・現八段)が来られていて、こっちは「糸谷先生が来てる!」って舞い上がってサインしてもらっているのに、都会の人は気軽に話したりしてるんですよ。