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恐怖で思考停止、さらに3歳の娘を人質に

 娘を人質に取っていたこともあり、松永はホテルで働く裕子さんに、通勤を続けさせている。ただし、十分な所持金は与えずに500円程度の小銭しか持たせず、携帯電話でこまめに連絡を入れるように命じていた。そして裕子さんが『曽根アパート』に帰宅すると、連日のように午前4時頃まで通電の虐待を繰り返したのである。

 平時であれば、警察に駆け込むなり、外部に助けを求めるといった解決方法があるのではと考えられるが、松永への恐怖はその思考が停止するほどのものだったということが窺える。冒頭陳述では、通電の被害が裕子さんに止まらなかったことにも触れている。

〈時には上記3歳の二女に対し、前同様に通電させ、あるいは、通電する旨同被害者(裕子さん)に告げるなどして恐怖感を増大させて、同被害者を意のままに従わせた〉

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©︎iStock.com

 その結果、松永と緒方は裕子さんにクレジットカードで、合計約50万円相当の貴金属の購入を命じて質屋で換金させたり、カードローンで50万円を借り入れさせた。また、裕子さんの私物であるカシミヤコートや、松永から貰った女性用ペアウォッチなども入質して現金化させられている。

犯行が露呈しないように偽装工作も

 このように裕子さんを暴力と脅しで支配下に置いていた松永と緒方は、犯行が露呈しないように、新たな偽装工作も行っていた。

〈平成8年(96年)11月中旬ころから同年12月中旬ころにかけて、2回にわたり、同被害者に対し、「前夫や義母と会って幸せにやっていると伝えてこい。この時計を前夫に渡して来い。」などと命じ、携帯電話機を持たせてこまめに連絡を取らせるなどして監視下に置いた状態で、同被害者を前夫らと面会させた上、上記同様の思い出の品である男性用ペアウォッチを単品で購入したものと装わせて前夫にプレゼントさせるなどして、同被害者が経済的にも満ち足りた幸福な生活をしているように偽装させ〉ていたのである。

 こうしたなか、12月中旬に虐待の苦痛に耐えかねた裕子さんが、「『曽根アパート』を出たい」と本音を漏らしたことから、彼女の逃走を阻止する必要があると感じた松永は、12月29日の未明に通電を行いながら、勤務先への辞表を書くように命じて従わせた。そして、その日の午前中のうちに職場に提出させたのである。