頼んだ本人が驚いた、永瀬叡王のおやつ
一方、惜しくも敗北を喫した永瀬叡王。雨の中コンビニに走ったり、豊島竜王・名人よりもぴんぴんしているように見えた。
永瀬叡王には将棋めしについて聞きたいことがいくつもあった。なぜうな丼を注文したのか、海鮮丼やあるいは両取りが最有力だと思ったと食い気味に質問すると、「海鮮丼にするか迷ったんですが、内容を聞いて食べたことのない魚が入っていたため避けました」と丁寧に答えてくれた。ならば馴染みあるカレーという選択肢はなかったのだろうか?
「カツカレーですよね? 油ものは避けているんです。座ったままの職なので取る手は無いですね。あ、でもカツカレーのカツ抜きという手もありましたかね!」
ハハハ!と笑いながら冗談をかます叡王。いつもの明るい様子にも見えるが、実際はどうだったのだろうか。
将棋ミニ会席についても尋ねてみると、「ちょっとずつ食べました。一皿一品ずつくらいでしょうか……」。意外だ。昨今の永瀬叡王は大食漢としての地位を確立していただけに、この回答には少し困った。が、そういえば3時のおやつで生クリーム菓子3連投という驚愕の一手を繰り出していた。バナナ8本もあるのに!
「いやあ、あれは驚きましたよね! 驚きました」
……頼んだ本人が驚いている。もしかしたらこのおやつが夕食にも響いていたのかもしれない。
「千日手上等でした」
そして指し直し局、後手右玉は事前に準備していたのかどうか恐る恐る聞いてみる。負けた将棋について尋ねるのは勇気がいる。自分だったら聞かれたくない。気分を害してしまわないだろうか。
「予定でした。千日手上等でした。そういう戦法ですしね!」
心配をよそに楽しそうに笑いながら語る永瀬叡王は、本当に将棋が好きなのだろう。
『将棋は本当に楽しいです』
かつて、20歳だった豊島竜王・名人が子供たちの前で語った。
『昨日負けた私が言うのですから、間違いないと思います』
その前日、当時王将だった久保利明九段に敗北を喫した豊島青年。
第一線で、いや盤上の海を泳ぐ棋士たちすべてがきっと同じことを思っているのだろう。だから、どれだけ悔しい思いを抱えても、何度でも盤に向かい、果ての無い海へ旅立つのだろう。
それは叡王も例外ではないはずだ。
ようやく電車が来た。荷物を置き席に着くと、叡王は鞄からその日発売された週刊少年ジャンプを取り出した。
第1局は終わった。ならば次の第2局のためにまた努力を重ねるだけだ。そのためにも気分転換は必要不可欠だろう。
写真=松本渚
【第5期 #叡王戦 七番勝負】
— ニコ生公式_将棋 (@nico2shogi) June 29, 2020
7/5(日)10時(※開場9:30)より、永瀬拓矢叡王 vs.豊島将之竜王・名人による第2局を生放送いたします。
解説:深浦康市九段
聞き手:香川愛生女流三段
豊島竜王・名人の2連勝となるか、永瀬叡王が巻き返しをはかるか、注目の一戦です。
▼視聴https://t.co/1Vruv2wF0i pic.twitter.com/TQIFaWte7k