文春オンライン

2020/07/18

 過ぎ去りし若き日、リングの上でしのぎを削った戦友同士が鍋を囲むと、どんな話題になるのだろう。

「そんなの決まってるじゃないか。スタンは猪木さんの悪口、俺は馬場さんの悪口(笑)。まあそれは冗談だけど、やっぱり昔の思い出話が多くなるかな」

 

 嶋田(天龍)家にはこの20年来、年末恒例の行事がある。

「毎年、大みそかになると渋谷マークシティ店から持ち帰り用セットを買ってきて、年越しそばならぬ年越しうどんすきをやるのが決まりでね。娘は店で出す時の見栄えがいい配置を知っているから、具材の盛り付け方にうるさいうるさい(笑)。それでもともあれ、1年を無事に過ごせたことを家族で感謝し、来る年も頑張ろうと思いを新たにしながらいただいてたんです」

閉店を聞いて「なんだかすごく悔しいし、やりきれない」

 天龍氏が東京美々卯の全店閉店を知ったのは、メディアで報じられる数週間前。夫人の元に、旧知の元・東京美々卯社員から連絡が入ったのだ。当初はその事実が、どうしても信じられなかった。

「いつ行っても、大勢のお客さんがいたし、店員さんの接客は気持ちよかったし、もちろんうどんすきはうまかったから、何がどうしたのって感じだった。新型コロナでの売り上げの落ち込みが閉店の原因だとしたら、なんだかすごく悔しいし、やりきれない。東京風とはまた違う、関西独特の出汁の文化をせっかく根付かせたのに、あんなことで関東の全部のお店がなくなっちゃうなんて……。

 他のところとは全然違う感じで利用させてもらってきたし、行きつけの店って、そう一朝一夕にできるもんじゃないから。うどんすきって本当はこれからの季節、夏の暑いさなかに、冷房が効いた店内で食べるのがたまらないんだけど」

 すると天龍氏がこの先うどんすきを堪能する際、どこか代わりになる店を見つけることになるのだろうか。

「いや、美々卯に不義理になっちゃうから、今後東京では他のうどんすきの店には手を出さないと思う」

 それほど彼には、思い入れの深い店だったのだ。

 

「仲のいい友達が遠くへ行っちゃったっていうか、気さくにバカ話ができるやつがいなくなっちゃった感じですよ。俺の歳になると、人を見送ることがだんだん増えてきてるから、なおさらそんな寂寥の気持ちがね……」

 だからこそ、美々卯のうどんすきを家族でつつきながらの年越しだけは、2020年の大晦日も譲れない。天龍氏は大阪本店の宅配用セットを取り寄せてでも、今までと変わらぬ習慣で1年を締めくくるつもりだという。

写真(天龍源一郎氏):松本輝一/文藝春秋

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