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「わかっている。でも、秘のグレードが高すぎて、まだ、言えないんだ。出港の直前に航海長にだけ言う」

「わかりました。出港の準備が整いましたら、また参ります」

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 秘のグレードが高すぎて航海長に行き先が言えない──。初めて経験する事態に少したじろいだが、すぐに気分が高揚し始めた。

 日本の周辺海域でいったい何が起きているんだ?という興味本位の気持ちと、それを特等席で見ることができるという不謹慎な感情がわいてきたのである。

 予告通り艦長は、出港直前に私にだけ行き先を伝えた。そして「みょうこう」は、航海に最低限必要な乗員が戻ったところで出港し、残りの者は順次ヘリコプターにより洋上で回収していった。

富山湾で「不審船」の捜索を開始

 結局、行き先は「富山湾」で、任務は「特定電波を発信した不審船の発見」だった。

 翌日の早朝、まだ暗いうちに富山湾に到着し、「不審船」の捜索を開始した。けれども、湾には何百隻という漁船が操業していて、その中から日本の漁船に偽装している北朝鮮の特定電波を発信した船を発見しなければならない。よほど近づけばアンテナの形や数で不自然なものを見つけることができるかもしれないが、すべての漁船に肉薄することなどできるわけもなく、発見は極めて困難である。

 正直、私は発見なんて不可能だと思っていた。が、ともかく、不自然な漁船の捜索を開始した。捜索開始から2時間ほどが経過して夜が明けると、すぐに不審船を発見したとの連絡が来た。それは、海上自衛隊の航空機、P3Cという対潜哨戒機(対潜水艦戦用航空機)からだった。若い幹部が私に報告をしてきた。

海上自衛隊の航空機「P3C」 ©iStock.com

「航海長、P3Cから、不審船を2隻発見した、との連絡が来ました」

「何? 何が不審だって言ってんだ」

「漁具が甲板上にないそうです」

「馬鹿かお前は? 昨日の天候だぞ。漁具を甲板上に出している漁船なんかいるはずがないだろ。全部流されちまうよ。どうでもいい情報だ。艦長には俺から報告しておく。一応ポジションだけはチャートに入れておけ(発見された場所を海図に書いておけ)」

「第二大和丸」と書かれた漁船

邦人奪還』(新潮社)

 私は、不審船と判断した理由があまりにも船のことを知らなすぎると考え、参考にするべき情報ではないと判断した。

「航海長から艦長へ、P3Cから不審船発見との連絡が来ましたが、不審船と判断している理由が『甲板上に漁具なし』であり、理由としては極めて薄弱なため、現捜索計画に変更の要なしと判断します。以上です」

「CO了解」(CO=コマンディング・オフィサー=艦長)

 それから半日が過ぎた午後、私は艦橋で勤務していた。

 前方の水平線付近に針路を北にとっている独行の漁船を発見。不審船かどうかを確認するために近づくというより、若い幹部に操艦の訓練をさせるつもりで、その漁船の後方500ヤード(460メートル)に回りこむように指示をした。