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「総員、戦闘配置につけ」
海上警備行動とは「海上における治安出動」のことで、警察官職務執行法が準用される。もっとも海上自衛隊発足以来、一度も下令されたことがなかった。だから、私は反射的に「そんなもの、通るわけがない」と思ったし、実際に口にした。
「日本の腰抜け政治家が海上警備行動なんてかけるわけねえよ。戦後、一度もかかったことがねえんだぞ。政治家は官僚君となぁ、海警行動をかけられなかった理由を考えてんだ!」
突然、けたたましいアラームが鳴り出した。
「カーン、カーン、カーン、カーン」
アラームは、全乗員を戦闘配置につけるためのものである。再び副長の声が響いた。
「海上警備行動が発令された。総員、戦闘配置につけ。準備でき次第、警告射撃を行う。射撃関係員集合、CIC(戦闘行動をコントロールする中枢部)、立入検査隊員集合、食堂」
私にはもう「盛り上がってまいりました!」などと、ふざけている余裕はなく、艦橋に向けて全力で走りだした。走りながら、なぜ靴を脱ぐことや上着を脱ぐことが禁止されているのかを理解した。
真っ暗な艦橋でサンダル、Tシャツであることがばれるわけがないので、そのまま艦橋へ行った。結局、最後までこの格好だった。ようやく艦橋にたどり着き、航海指揮官を交代すると、全身から緊張感があふれ出ている艦長が見えた。
(後編に続く)
※本稿は伊藤祐靖『自衛隊失格』を元に再構成しています。