1ページ目から読む
4/6ページ目

「何でなんだ? いいのか、これで? あいつには、自分と同じ匂いがする」

 と思った。時と場所が違っていれば仲間になっただろうとも思った。

 怒りを爆発させるはずが、私はしょげて、艦首からトボトボと艦橋に戻った。

ADVERTISEMENT

工作母船はスピードを上げた

 日没直前の18時頃になってようやく、巡視船が追いついてきた。

 相手は拉致船、北朝鮮の高度な軍事訓練を受けた工作員が多数乗っている。密輸や密漁をしている船とはレベルの違う抵抗をすることは目に見えているのに、いつも通りに海上保安官たちは飛び移ろうとしていた。そしてまさに飛び移ろうとした瞬間、それまで12ノット(時速20キロ)程度の航行だった工作母船は大量の黒煙を吹き出しながら増速し、最終的には34ノット(時速60キロ)まで上げた。

「みょうこう」もそれに合わせて増速していった。高速航行している時に不意に甲板に出ると海に転落する可能性があるため、立ち入りを禁止した。

©iStock.com

「達する。不審船が急加速し、保安庁からの逃走を開始した。本艦は逃走中の不審船を追跡するため高速航行を行う。ただ今から特令あるまで上甲板への立ち入りを禁止する。繰り返す。高速航行を行う。ただ今から特令あるまで上甲板への立ち入りを禁止する」

 私がマイクを置くと、すぐにガスタービンエンジンの起動する音が「キーン」「キーン」と二つ聞こえてきた。「みょうこう」は2万5000馬力のガスタービンエンジンを4機持っているが、通常は2機でも十分な速力が出るため、残りの2機は起動していない。

「ただ今から威嚇射撃を行います」

 間もなく、艦橋のスピーカーから機関長の声が響いた。

「機関長から艦長、航海長へ。エンジン全機起動した。10万馬力、全力発揮可能」

 出港前に艦長から行き先について「秘のグレードが高すぎて、まだ、言えないんだ」と言われた時と同様に、不謹慎ながら私の胸は高鳴り始め、心の中で叫んでいた。「来ました、来ました! 盛り上がってまいりました!」。そして、頭の中では『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌がかかっていた。

「みょうこう」にとっては、まだ余裕のあるスピードだったが、巡視船の方は工作母船に少しずつ離されていった。しばらくすると、巡視船から無線連絡が入った。

「護衛艦みょうこう、こちらは巡視船○○○。ただ今から威嚇射撃を行います」