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 そんな自己評価の低さが、逆にこの人の魅力だなと感じる。余計な気負いがないので、お話を伺っていても気持ちがいいのだ。B中華にはアクの強い店主が多く、それはそれで味わい深いのだが、また対照的な魅力がある。

 そしてそれは、出てくる料理の味のイメージとも直結する。たしかに、奇をてらってはいない。しかし、基本に忠実で手を抜いていないことがわかる。そのせいなのだろう、食べてみると満足感があるのだ。ちょっとした高級感を感じさせながら、ほっとするような家庭的な側面も備えている、安定したB中華というべきか。

 

「ほんとですか? まあ、本格というほど本格でもなくて。いわゆる町中華のメニューにちょっと足したぐらいかなあとは思いますけどね。そんなに料理ものがメインというわけではなくて、この辺はビジネス街でサラリーマンのお客様が多いので、セットメニューや定食を、しっかり量があって食べやすい値段でお出ししているということですね」

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客としても無理なく溶け込める“空気感”

 だが、そのスタイルで45年も続けてこられたのだからたいしたものだ。

「まあ、でも、結局持ち家なので家賃がかからないし、そういう形でなんとかっていう」

 穏やかな口調で、どこまでも謙遜する方なのである。掃除も行き届いていて清潔だし、こういう業態にしては女性客が多いという話にも納得できる。

 

 そういえばお話を伺っている間、若いカップルが入ってきて静かに食事をし始めた。常連という感じでもなさそうだったが、その仕草はとても自然に見えた。

 お店側に過度な気負いがないから、客としても無理なく溶け込めるのかもしれない。

なぜ店内に映画のポスターが?

 ところで気になることがあった。店内のいたるところに、映画のポスターが貼ってあるのだ。

 
 

「もともと僕、映画が好きだったので。二十何年前かな、ここを改装したときに、アメリカから洋画のポスターを輸入して飾ってたんですよね。ずっとそういう感じでやってきたんですけど、そのうち知り合いが『貼ってくれ』ってポスターを持ってくるようになって。それから徐々に、こうなっていったんです。『ここに来れば貼ってくれるよ』みたいな感じで、紹介された人も来るようになって。自主映画のロケで使ってくれたりとか、そういうこともありますね」