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「結果に結びつかないこともあって…」『麒麟がくる』帰蝶役・川口春奈、苦悩の過去と“大事な人”

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2020/08/30
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不運や消したい過去ではなく、「誇り」

 雑誌『ニコラ』の読者モデルから出発してポカリスエットのCMで話題となった当時の川口春奈のポジションからして、新人女優の売り出しの定石通りに同世代の人気男子アイドルとの恋愛ドラマを選べば手堅い数字を残せただろう。だが18歳の川口春奈は、後の大河ドラマ『いだてん』の視聴者とキャストがメディアに何を書かれても宮藤官九郎を信じ続けたように、『夫のカノジョ』という作品の価値を心から信じていた。インタビューで語った通り、彼女にとってそれは不運や消したい過去ではなく、「誇り」として今も胸の中にある。

 女優としての川口春奈は、その後も何かにリベンジするように挑戦的なキャリアを重ねる。『夫のカノジョ』の翌年には、前田司郎の戯曲『生きてるものはいないのか』に青山円形劇場で主演。群像不条理劇とも言われる前衛的な内容で、通常なら19歳のアイドル女優が挑戦する舞台ではない。彼女の当時のブログは、千穐楽の日にこう書き残されている。

「どんな感想を持たれても どう思われようと
人生で初めてチャレンジした舞台であることは間違いないので
とても大事な経験、作品になりました。
とても新鮮で自分の欠けてるものや 苦手なことも少し分かった気がしました。
全力で挑んで 前田組のみんなと1ヶ月以上いれたことがとてもとても幸せで
本当に感謝しています!」

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©時事通信社

 自分より強く大きな相手、困難な役に挑むように、川口春奈はキャリアを重ねてきた。彼女の同世代の女優の層は厚い。1995年生まれだけでも土屋太鳳、川栄李奈、奈緒、そして松岡茉優がいる。ひとつ上の1994年生まれには二階堂ふみに清野菜名、広瀬アリス。外から見れば「黄金世代」だが、中にあるのは激しい競争だ。

 川口春奈は女優として小器用なタイプではない。若くして天才と呼ばれ演劇賞や映画賞を受賞したり、有名映画監督のミューズとして寵愛された経験も彼女にはない。ただ真っ正直に自分のすべてを差し出し、打たれることを恐れないボクサーのように正面から役にぶつかっていくタイプの女優だ。

 それでも強力なライバルたちの中、いつか演技で、実力で認められる存在になりたいという願いが、同じ事務所の菅野美穂を憧れの存在に上げ続ける川口春奈には一貫してあるように思える。