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「結果に結びつかないこともあって…」『麒麟がくる』帰蝶役・川口春奈、苦悩の過去と“大事な人”

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2020/08/30
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 大河ドラマ『麒麟がくる』の沢尻エリカ逮捕による帰蝶の代役は、当初難航するのではないかと予想された。1年にわたる大河ドラマのしかもヒロインを演じるには、演技力と知名度、そして通常なら2〜3年前から調整を始めるスケジュールを今から白紙キャンセルして大河撮影のために明け渡す犠牲が必要になるからだ。

 すでに撮影した部分の撮り直しも考えれば一刻の猶予もなく代役を決めなければならない状況で、川口春奈の帰蝶役代役出演が決定したのは意外にも早かった。それは早く決めなくてはならないというNHK側の事情だけではなく、それに応じた川口春奈サイドがほとんど迷いなく、帰蝶を演じる代償に1年分のスケジュールを差し出したことを意味していた。

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 放送前は沢尻エリカより10歳近く若い川口春奈に経験不足を懸念する声もあったが、放送が始まると堂々とした演技を高く評価する声が上回っていった。そうした川口春奈の健闘、女優として大河ドラマでの飛躍を伝える記事の中で、しばしば彼女は「これまでの不運」について書かれることがある。一般の記憶には、今も彼女が18歳の時に演じた初主演ドラマについての煽情的な報道が残っているからだ。

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ドラマ『夫のカノジョ』の視聴率低迷と打ち切り

 2013年にTBSで放送された連続ドラマ『夫のカノジョ』の視聴率低迷と打ち切りは、今振り返れば過剰なほどにメディアに書き立てられ、当時18歳の川口春奈はその渦中に立たされた。メディアが書いた記事は2013年当時のネット文化の中で悪趣味に嘲笑され、ネットの書き込みでまたメディアが記事を書くという循環が起きた。そしてドラマが終わり、川口春奈が次の作品に移っても、ネットはまるで悪口を覚えた子供のようにそのドラマのことをはやしたて続けた。

 だがその初主演ドラマ、『夫のカノジョ』がどんな内容だったのかを正確に知る人は当時も今も少ない。ドラマ化の2年前に書かれた垣谷美雨の原作小説は、目を引くタイトルでイメージするような不倫ドラマではなく、39歳の専業主婦と20歳の非正規雇用女性、社会の中で分断された2人の弱者の心が入れ替わる物語である。

 来年2021年にも『老後の資金がありません』の映画化が予定され、多くのヒット作、メディアミックス作品を持つ柿谷美雨の文章は読みやすく平易で、文学めかした修辞もなければ、社会学用語がそのまま出てくるようなこともまずない。だが、東日本大震災で避難所に暮らす女性たちの抑圧と抵抗を書いた『女たちの避難所』を始め、その作品は一貫して現代社会で女性が生きることの困難をテーマにしている作家だ。