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「結果に結びつかないこともあって…」『麒麟がくる』帰蝶役・川口春奈、苦悩の過去と“大事な人”

CDB

2020/08/30

大河ドラマ『麒麟がくる』の放送再開

 8月30日、大河ドラマ『麒麟がくる』は放送を再開する。日本史上知らぬもののない神殺し、ジャイアントキリングの物語が再び動き始める。川口春奈がこの試合の最後まで立っていられるか、それはまだ誰にもわからない。通常でさえ厳しい撮影スケジュールに生じた膨大なタイムロスがどう内容に響くのか、感染症はどこまで広がるのか。

 通常のドラマとは比較にならないほど多くのスタッフと出演者が集まる大河ドラマで、その感染リスクはさらに累乗される。本来書かれるはずだった帰蝶のシーンが調整のためにカットされる可能性もある。あるいはかつての初主演のドラマと同じように、この大河ドラマが感染症による再度の撮影中断で途中で打ち切られる可能性さえ否定できない。

 だがその挑戦がどのような結果に終わるとしても、『夫のカノジョ』で山岸星見を演じた18歳の川口春奈が今も胸を張り、誇りを持って25歳の彼女の中に立っているように、この先も彼女が目の高さに拳を構えてファイティングポーズをとる限り、帰蝶を演じる25歳の川口春奈もまた敗れ去ることはないのだろう。大河ドラマの代役が決定した2019年末、インスタグラムに川口春奈が書いた言葉がある。

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「職業柄、日々いろんな声が聞こえてきますが、全く私には刺さりません。私にしかできないこと、私にしかないストロングポイント。大切な人の言葉に耳を傾け、自分を信じてやるのみです」

 拳に強くバンデージを巻き、マウスピースを深く噛んだボクサーが自分に言い聞かせるようなその言葉は、川口春奈の中に今も響いているはずだ。

©iStock.com

映画館のない美しい島まで

 川口春奈が開設したYouTubeチャンネルは、初回から100万人以上の視聴者を集めた。その第2回の放送で彼女が選んだのは、故郷の福江島の訪問だった。2014年のフォトエッセイの中で彼女は自分が生まれた島について「カラオケボックスは中学の時に初めてできた。映画館は今もないと思う」と語っている。

 映画館のない島に生まれた女の子がどのようにして海を越えて映画に出演する女優になったのか、18歳の時に打ち切られた主演ドラマで本当は何を人々に伝えるはずだったのか、なぜ癖のある芯の強い女性の役を好むのか、いつか川口春奈がゆっくりと話し始める日がくるのかもしれない。だがその前に、彼女には大きな試合が待っている。

 ネットを見ると2019年には「映画館のない福江島で映画上映会をしよう」というクラウドファンディングが行われているから、きっと彼女の島には今も映画館はないのだろう。テレビ放送も東京キー局と同じ番組はおそらく入らない。

 だが、この国の外まで届くと言われるNHKの電波だけは別だ。日本でも最も広い範囲を持つNHKの放送網は、大河ドラマという川口春奈の挑戦、彼女が人生を賭けたビッグマッチの中継をその島にも運ぶだろう。彼女が生まれて育ち、そして今も家族が暮らし父親が静かに眠る、映画館のない美しい島まで。

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