2019年9月8日未明、「教育委員会は、大ウソつき」と書き残した、埼玉県川口市内に住む特別支援学校1年の男子生徒・小松田辰乃輔さん(享年15)が自殺してから1年が経つ。生徒や母親は中学校時代のいじめやその学校対応に不満を抱いていた。
いじめ防止対策推進法にもとづく調査委員会の設置中に、対象の生徒が自殺をするのは稀だ。現在は、新たな調査委が設置され、調査と検証が始まっている。
辰乃輔さんは、自宅近くの川口市内のマンション11階から飛び降りた。市内の医療機関に搬送されたが、亡くなった。辰乃輔さんの母親が、1周忌を前に取材に応じた。
「やりきれない思いと許せないという気持ちが錯綜しています」
「息子の辰乃輔が旅立って早1年が経過します。私たち家族は時間が止まったままです。何も解決していません。『前を見ないと』『先を考えないと』という、心ない言われ方もされたりしますが、当事者にしかわからないのだと、耳を塞ぐ日々が続いています。前を向き先に進めるなら教えて欲しいです。我が子が亡くなり同じことを思えるのでしょうか。
なぜ、辰乃輔は自ら命を絶たなければいけなかったのか? どんな辛い思いをして、その判断に至ったのか? 誰が追い詰め、追いやったのか? 私は今すぐにでも辰乃輔の元に行きたいという気持ちが消えることはありません。しかし下の子のこともあり日々、葛藤の毎日です。辰乃輔を追い詰めた人たちを許せない気持ちがあります。ただ、その人たちを責めても辰乃輔は帰ってきません。本当に毎日がやりきれない思いと許せないという気持ちが錯綜しています。
ただ辰乃輔の悩み、苦しみを気付いてやれなかった後悔がありますし、助けてあげる方法はなかったのか? いじめの当事者への怒り、憎しみについて、自問自答しながら、毎日を過ごしています。本当は悪い夢を見ているのではないのか? いつか『母さん! ただいま』って帰ってくるのではないのか? と淡い期待と帰ってくることはないという現実を受け止めると同時に、絶望感を抱きます。辰乃輔が大好きだった弟がいるので何とか気丈に振る舞っていますが、1人になると良くない考えが頭の中を巡ります」
辰乃輔さんは海が好きだったようで、夏になると、母親は海を思い出す。
「何かあると、海に行きたいと言っていました。浮き輪でぽかんと浮いている姿が脳裏から離れません。海にいるときは、唯一、無になれる時間だったんでしょう。自分のことを知らない地域ですし、笑える時間だと言っていました。近所ですと、なかなか笑えませんでしたから」