度重なる自殺未遂
3月22日には学校から電話があった。このことを辰乃輔さんはノートに書いている。この日も、辰乃輔さんは家出をし、腹部を自傷していた。
3月27日、この日も自傷行為をした。保健センターのメモでは、「15:00 いなくなったので探しに行ったら、手首を切っていた。出血は止まり、傷も深くないので、母がHpへ連れていく」とされている。ノートには、〈ぼくは、死ぬのをしっぱいした。なぜしねなかった。死ねなかった事がくやしかったです。早く死にたい、早く消えたい〉(3月28日)と書かれていた。辰乃輔さんにとっては、自傷行為ではなく、自殺未遂だったようだ。その後は、ノートには「消えたい」よりも、「死にたい」が多くなる。
最後の自殺未遂は、2年生に進級した後の4月10日。自宅近くのマンションから飛び降りた。近所に住む看護師がおり、心肺蘇生をしたことも影響してか、命をとりとめたが、意識不明のままICUに入院。
大腿骨骨折をはじめ非常に重篤な状態であった。
「入院後に父親と連絡を取ったようですが、自分がなんで苦しめられ、いやな思いをしなければならないのか。転校を勧められなければいけないのかということを父親には話したようです。それに、シャープペンシルを折られたことが頭を離れず、『シャープペンを折られてばかりで、お母さんにお金を使わせてしまって、申し訳ない』と言っていたようです。恥ずかしかったようで、私には言わなかったんです」(母親)
「フラッシュバックが起きるけれど、どうします?」
記録によると、翌日の緊急職員会議で、校長は初めて、「いじめ事案」として対処する方向を示した。これを受けて、市教委も県に事故報告をした。4月12日には、市教委は市長や副市長に状況を説明している。3度目の未遂でようやく、新任の校長は「いじめがあった」と認めたが、その対応について辰乃輔さんは不十分と感じていた。
市教委は、3度目の自殺未遂をした半年後の、2017年10月20日、市長にいじめ重大事態と、調査委員会設置について説明している。11月2日、調査委の第1回会合を開いた。中学校入学以降、1回目の自殺未遂から数えると1年2ヶ月、3回目の未遂からは7ヶ月、放置していた。
「本人への聞き取りはありませんでした。2018年2月ごろ、市の教育研究所の副所長は『いろいろ調べたいと思うんですが、調べるとなると、フラッシュバックが起きるけれど、どうします?』と話していました」(母親)