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2020/09/25

「戦争には決断、敗北には挑戦、勝利には寛大、平和には善意」

 さらに彼に対する評価が高い第2次大戦中であっても、1944年10月にモスクワでスターリンと交わした、戦後のバルカン半島での勢力圏を分割したいわゆる「パーセンテージ協定(ルーマニアはソ連が90%、ギリシャはイギリスが90%などのメモのかたちにした)」などは、帝国主義者としてのチャーチルの「悪党」ぶりを見事に表したものであろう。

 しかし彼が第2次世界大戦で示した指導のあり方は、単にイギリスの将来や自分自身の栄光のためというよりは、ナチスという巨悪に立ち向かい、人類全体に平和を取り戻すという、もっと大きな歴史的で普遍的な意思を感じるのもまた事実である。それは、歴史家としての彼の代表作『第2次世界大戦』の基本的な「教え」として書かれている、次の言葉にも集約されていよう。

「戦争には決断、敗北には挑戦、勝利には寛大、平和には善意」。

©iStock.com

 そしてこのようなチャーチルの発想につながったのが、彼が生まれ育ち、「生き急いでいた」若き頃に駆け回った「大英帝国」という、史上初めてのグローバルな世界が持つ多様性ではなかったか。もちろん帝国の建設や拡張の背後には、数々の蛮行や差別、搾取や虐殺も見られたことは事実である。しかしジェントルマンたちが築いた大英帝国には、あくまでも彼らのキリスト教的思想に基づくという限界は見られたものの、一方で全人類的な平和の構築という考え方を生み出す素地が見られたのもまた確かなのだ。

 その意味でもチャーチルは大英帝国という共同体が生み出したイギリス史上「最後の帝国宰相」だったのかもしれない。

【参考文献】
Paul Addison, Winston Churchill(Oxford University Press, 2007)
ボリス・ジョンソン(石塚雅彦・小林恭子訳)『チャーチル・ファクター-たった一人で 歴史と世界を変える力』(プレジデント社、2016年)
木畑洋一『チャーチル-イギリス帝国と歩んだ男』(山川出版社、2016年)
W・S・チャーチル(佐藤亮一訳)『第2次世界大戦』第1巻、河出書房新社、1975 年)

悪党たちの大英帝国 (新潮選書)

直隆, 君塚

新潮社

2020年8月26日 発売

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