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「死んでもいい人間を用意してくれ」 深夜2時に福島1Fに向かった、“20人の決死隊”

『ヤクザと原発 福島第一潜入記』#8

2020/10/25

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 読書

note

ヤクザ発原発経由リビア行き

 メーリングリストを通じ、海外メディアからのコンタクトも多かった。テレビ局はすべて断ったが、アルジャジーラの取材だけは受けた。1F内で動画を撮影し、再びインタビューに応じる代わり、リビアへの入国と現地取材を手伝ってもらうという交換条件が成立したからだ。

 暴力団に対する風当たりは年々強まり、近々、取材さえ困難になる。この分野だけでは、そう遠くない将来、路頭に迷う。暴力団記事が消滅するかもしれない……慢性的な不安を抱えている私は、次のターゲットを戦地と決めていた。組織対組織の暴力団抗争を突き詰めていけば、最後は国家対国家の戦争にたどり着くのではないか。そう考えたのだ。

 戦場取材には多くのエキスパートがいて、そう易々と入り込めないことは分かっている。また彼らの中には「求められる文章や写真が定型化してしまい、もう辞めよう」と考えている記者もいると聞いていた。が、マンネリ化に対する拒否反応は場数を踏んだ専門家だけの苦悩である。食えるか食えないかはともかく、私のような戦争初心者にとって、新鮮な体験となることだけは間違いない。

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※写真はイメージ ©️iStock.com

 東日本大震災前、取材場所として選んでいたのがリビアだった。カダフィという独裁者がなんとも暴力団的だし、2010年のジャスミン革命から始まった“アラブの春”はリビアにも到達すると予想した。アルジャジーラの記者に訊いても、独裁政権が崩壊するのは原発取材が終わった頃だろう、とアドバイスされた。暴力団―原発事故―リビアという流れを、「危険」というキーワードで括れば、一本の筋がビシッと通る。

 結局のところ、このプランは失敗だった。1Fでの勤務最終日、首都・トリポリが陥落してしまったからだ。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売

「死んでもいい人間を用意してくれ」 深夜2時に福島1Fに向かった、“20人の決死隊”

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