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2020/11/01

source : 文春文庫

genre : ライフ, 社会, 読書, 医療, ヘルス

「俺、作業員なんです。入れて下さい!」

 シェルターの出入り口はどちらも、一般の住宅にあるようなドアを持っておらず、テントのようにファスナーで開け閉めを行う。外部から勝手に開けることはできず、常時、専門の係員が内部にいて、ドアの中央にある特殊な窓から訪問者を確認し、開閉してもらわなければならない。大勢の作業員を迎え入れるときは、外気の侵入を防ぐため、係員の判断でいったんドアを閉める。そうした事情がわからない原発素人の私は、てっきり遅刻の罰と思い込み、テンパったのだ。

「俺、作業員なんです。今日が初勤務なんです。入れて下さい!」

 全面マスクをしながらそう叫んだところで、中の係員に聞こえるはずもない。係員は落ち着いた様子で左手を挙げ“待て”の動作を続けていた。1分あまり待たされたあと、ようやく私はシェルターの内部に入ることができた。

シェルターで提供される食糧(写真:著者提供)

「まず靴カバーを脱いで下さい。そしたら靴のままあがって下さい」

 てっきり、すべての装備を一新すると思っていたので「タイベックとマスクは脱いでいいんですか?」と訊いた。係員は無言でシェルターの奥を指さした。私の目の前にさらに扉があった。そこを開けてもらい、全面マスクを外す。タイベックはそのままだ。

 本当の入口を抜けると、左端に机があり、数人の係員がいた。反対側には新しいタイベックなどの装備が山積みされている。説明されなくとも、作業後、ここから新たなタイベックを持って行けばいいとわかった。シェルターの廊下を10メートル程度歩き、左側に我々の会社にあてがわれた部屋があった。

無理はしないで下さいと繰り返す責任者

 外見がかまぼこ状なので、内部も同様である。隅っこに座っていたら、ミーティングが始まった。現場の責任者などから注意点などが説明された。彼らは何度も「無理はしないで下さい。辛かったら、ここで待機し、現場にも出ないように。うちの現場ではないですが、昨日も1人熱中症で倒れました。大げさではなく、毎日といっていいほど無理をして倒れる人が発生しています」と繰り返した。

 メモする時間も余裕もなかった。ただ、私は宿を出た瞬間から、3つのICレコーダーを最高音質でフル稼働させている。初日はシェルターの廊下でスイッチを入れた。そのうちの2つ、ないし1つは、現場作業中も携帯し、全作業中の会話をすべて録音してある。

 取材メモ代わりであることはもちろん、訴訟対策でもあった。言った言わない、という水掛け論で論争になるのはこりごりだ。名誉毀損やプライバシーの侵害など、1000万円以上の賠償金を請求された経験から、証拠がなければ辛い裁判になると分かっていた。