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すでに0.02ミリシーベルト被曝

 ミーティングが終わると、体温や血圧を測り、それを健康チェックシートに書き込まなければならない。バスを降り別の車で免震棟に向かった作業員が戻ると、ようやく線量計(APD)が手渡される。水色の(ピンク色もあった)パナソニック製で、タバコのパッケージ程度の大きさだった。数値をみると、すでに0.02ミリシーベルト被曝していた。

「これ、おかしいですよ。数字がゼロじゃないです。壊れてます」

「あのね、APDは毎日免震棟に取りに行くわけ。免震棟は敷地内の中間付近にあるのよ。だからどうしてもここまで持ってくるだけで線量を食うの。わかった? 3月、4月、5月と、線量が高かったころは、受け取ったときに0.04被曝してたこともあったわ。だから普通。素人がギャーギャー言わない」

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 これにクイクセルバッジと身分証を連結し、首からさげ、肌着の左右の胸にあるポケットに格納する。一般的にはクイクセルバッジで判明した被曝量のほうが多くなるという。

 最後にその日の作業内容に沿って、4次請け会社(東芝系列は、東電―東芝―IHI―IPCの下にある協力会社)ごとに、KYと呼ばれる危険予知ミーティングを行い、重要ポイントを全員で唱和する。

フクシマ50のタイベックスの背中(写真:著者提供)

今日もゼロ災で行こう、よし!

 当日、グラインダーを使う作業が多い場合なら、リーダーが「グラインダーを使う際は保護眼鏡、保護マスクをして作業しよう」とかけ声をあげ、続いて「保護具の使用はよいか!」と作業員たちに問いかけるのだ。

 すると作業員たちは声を揃え、

「保護具の使用よし! 保護具の使用よし! 保護具の使用よし!」

 と、3度復唱する。最後は全員の、

「今日もゼロ災で行こう、よし!」

 という台詞で締めくくられる。

 ゼロ災は“災害ゼロ”の意味で、この部分は毎回同じだ。最初はなにをやっているのか、なにを言っているのかわからず、口パクでごまかしていた。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売