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2020/11/21

source : 文春新書

genre : 社会, 読書

「造田博教を作りました。」

 こんな手紙を十数通、日本の外務省は大切に保管していたのである。

 事実関係に争いのなかった弁護側は、すぐに反証に入った。

 そこでも、手紙が証拠として提出されている。

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 逮捕、勾留後に、彼の数少ない友人のひとりに送ったものだった。

 そこにはこうある。

『造田博教を作りました。(中略)造田博教に入りたい気持ちのある人は、造田博教に入れます。造田博教は何処でも宣教します。宇宙に出ても宣教します。どこでも宣教します。(宇宙に出てもは、人が地球から宇宙に出てもです。)私は造田博教の中で神とか主ではなく宣教者です。(神様の事は神様の事として宣教します。)他の造田博教の教会の人(集まるかどうかはわかりませんが。)も宣教者です。同じ宣教者でも高い人、上の人、偉い人、すごい人、すばらしい人はいます』

 宛先の友人というのも、キリスト教の関係者だった。

 その彼に、自分の名前をとった宗教を作ったという。

 これをもとに弁護人が尋問を試みたところで、やっぱり「あ。はい」の生返事と、覇気のない、はりぼてのような問答が繰り返される。あるいは、言葉が見つからないのか、そのまま黙り込んでしまったり。

 事件についての現在の心境を尋ねられても、

「反省しています」

 とだけ、抑揚なく答える。それが、どんな反省なのかもわからない。

 少しばかり奇異で、難解な文面ではあるが、それでも、法廷での気の抜けたような被告人の態度からすれば、彼が唯一内面を吐露できる場所が手紙ということになりそうだった。