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特集観る将棋、読む将棋

2020/11/16

挑戦者のときよりも思い切りのよさが影を潜める

――その豊島竜王についてうかがいます。ソフトによる研究はよく聞かれますが、昨年の竜王戦では広瀬八段の序盤がうまくいった将棋も多かったと感じました。

広瀬 作戦の用意や準備段階では少し負けていたなと思います。ただ、形勢に大きく差がつかなかったので、終盤の入り口で逆にこちらがよくなっている将棋がありました。

 

――対局の流れでは途中でペースをつかんだ将棋が多かったけど、序盤が豊島竜王の脅威であることは変わらないのですね。

広瀬 そうですね。基本的にあまり差がなく、評価値がプラス300~400点くらいでも、そのあとの指し方が難しいという展開も多かったです。私はそのくらいの点差は誤差の範囲だと思っています。どの程度を誤差とみなすかは人によって違いますが。

――豊島竜王はまだタイトル防衛がありません。広瀬八段も挑戦者とタイトルホルダーの両方を経験されていますが、意識の点で違いはあるのでしょうか。

広瀬 うーん、変わっていないつもりですが、タイトルホルダーは守る戦いになりますからね。挑戦者のときよりも思い切りのよさが影を潜めるといいますか、普段通りには少し指しにくいかもしれません。その少しが致命的になる恐れがあります。あと、挑戦者は実力者ですので、勝つのが大変ではあります。豊島さんが敗れるときは紙一重の接戦が多くて、差をつけられることは少ない印象です。

30代半ばくらいになると、誰しもが通る道

――広瀬八段のいる王将リーグについてうかがいます。リーグのメンバーの中で、実は広瀬八段が7人中、3番目の年長者になります。

広瀬 だんだんそういうことが増えてきました。気づいたら年下ばっかりで。棋士になって15年以上たちますし、若手の台頭が目立ってきていると思います。

――豊島竜王戦は、広瀬八段にとって初めて持将棋になりました。

広瀬 勝ちそうなのに勝ちきれない、昨年の竜王戦と同じようなパターンでした。持将棋は仕方ないですが、指し直し局の最後の最後で勝ちを逃したあたりに、終盤力の衰えを感じます。

 

――広瀬八段は終盤力について、ソフトや年齢のことをお話しされていたことがありますね。

広瀬 どちらも要因として大きいですが、自分はソフトの影響が強いと考えています。序盤で出遅れないことを重視して、実際にそういうことは減ったと思います。ただ、終盤で勝ちを逃すことが結構あるので、それが課題になってきました。

――若手のころ、終盤をスパッと切って勝っていたイメージもあるので意外な気がします。

広瀬 意外ですか? 30代半ばくらいになると、誰しもが通る道だと思うんですよね。あと、近年の将棋が複雑なうえに、終盤のワンミスが目立つ時代でもあります。将棋そのものが一手のミスで奈落の底に落ちる性質はありますけど、点数でプラス1000点がマイナス1500点になるのが誰でもわかってしまう時代ですから。