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「はっきり自分より立場が上になった」1年ぶりの対局で感じた藤井聡太二冠の“進化と成長”

「はっきり自分より立場が上になった」1年ぶりの対局で感じた藤井聡太二冠の“進化と成長”

広瀬章人八段インタビュー #1

2020/11/16
note

振り飛車を指すときは、よほど勝ちたいか……

――例えば、若手時代によく指していた相穴熊の終盤戦と現在の相居飛車戦の終盤戦では違いはありますか。

広瀬 ありますね。相穴熊の終盤戦は、基本的に攻防のエリアが狭い。いまの相居飛車戦の終盤は、玉の可動域が広くて、それだけ読む材料が増えるんです。それに玉が危険な状態でも攻めて一手勝ちを目指すこともあります。

――振り飛車穴熊を得意にして「振り穴王子」といわれていました。そこから居飛車党になりました。両方を指す選択はないのでしょうか。データ上では、振り飛車穴熊を3年以上指していません。

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広瀬 今後はわかりません。戦術は変わっていきますから。ただ、振り飛車を指すときは、よほど勝ちたいか、居飛車がきついと思ったときか。つまり、変化球ですね。

 

――「振り穴王子」に代わるニックネームがなかなか定着しません。麻雀最強戦2020では、「麻雀でも穴熊王子」となっていましたね。

広瀬 麻雀で「穴熊」はまったく褒めていませんよね(笑)。王子という年齢でもないですし、ニックネーム、何がいいんでしょうか。ははは。

――広瀬八段は居飛車党になって1回目の変化をしたわけですが、その後、ソフトの影響で戦術が変わって、再び対応に迫られました。何回もスタイルを変えて苦心したことは多かったかと思います。

広瀬 ソフトを使い始めて振り飛車党から居飛車党に変えた人も多いですが、自分は転向が早かったですね。私が転向したころは横歩取りが多く、現在のように2手目に△8四歩として相手の作戦を受けて立つ居飛車党は少なかったです。いろいろな失敗もしましたが、居飛車戦の下積みができたのはよかったと思います。

いまは先手番こそ工夫を求められる時代

――ソフトの戦術が台頭する中で、広瀬八段は昨年パソコンを買い替えたと聞きました。

広瀬 さほど性能がいいわけではないノートパソコンを使っていたのですが、激しい変化を調べるときに形勢が揺れ動くので、不安があったんです。それで性能がいいものにしようと判断しました。実際、効果があったと思います。

 

――振り飛車を指していたころは先後の勝率差はあまりありませんでしたが、近年は後手番で苦戦することがあります。

広瀬 まあ、普通ですよね。後手でよく勝つのは不思議なくらいで、ほかの人と同じようになってきたというところです。

 いまは先手番こそ工夫を求められる時代で、それを示しているのが渡辺さん(明名人)だと思います。タイトル戦で常に新しい指し方を用意しているんですよ。あとで調べてみると、さほど有利になるわけではないけど、自分だけ知っていることが大きいわけです。

 プラスマイナス200~300くらいでは勝敗に影響は出ないので、あとの展開を知っていることが大事ですが、先手番のほうがそうした展開に誘導しやすいんですね。だからこそ後手番での対応力が問われますし、そこで藤井聡太さんが勝っているのだと思います。

 一時期は角換わり腰掛け銀ばかりでしたが、煮詰まって実戦数が減っています。そこで、角換わりでも違う指し方をしたり、矢倉や相掛かりにしたりする中で、結果的に先手勝率が依然として高いのだと思います。

渡辺明名人には、2018年度の棋王戦、2019年度の王将戦で挑戦している(写真は第44期棋王戦五番勝負第4局)。今期も渡辺明棋王への挑戦権を争う本戦トーナメントで決勝に駒を進めている ©君島俊介