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“景色”を肴に呑む開放感抜群の「見晴らし酒」…新神戸駅徒歩20分の老舗茶屋が酒場マニアを虜にしている

“若手飲酒シーンの旗手”が徹底レポート!

2020/11/21

genre : ライフ, グルメ

note

 見晴らしのいい場所で飲むお酒が好きだ。缶チューハイと発泡酒があればだいたい満足、つまみも簡単なもので十分という自分にとって、お酒を飲む場に求めるものは「味」ではない。いや、もちろん美味しいお酒も料理も大好きだしありがたくいただくのだけど、それよりも、そこにしかない雰囲気だったり、お店の方やお客さんとの気軽なコミュニケーションを楽しみに出かけている。

今はなき川沿いの名酒場「たぬきや」

 私は30代半ばになって東京から大阪へ引っ越してきたのだが、東京にいる頃、稲田堤の多摩川沿いにある「たぬきや」という店によく通っていた。川沿いの休憩所といった風情の店で、店の中と外の区別もなく、川べりの風を感じ、夕暮れに向かって変わっていく空の色を眺めながら穏やかに飲めるような空間だった。

今はもうない稲田堤の「たぬきや」。なんとも気持ちのいい時間が流れる店だった

 その店に初めて行った時に一緒だったのが酒場ライターとして活躍しているパリッコさんで、二人ともすっかり「たぬきや」の居心地のよさにやられてしまい、「自分たちが求めていた酒場とはこういう場所だったのではないか」と話し合った。

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 以来、お互いそれぞれに「たぬきや」のような酒場を探しては報告するようになり、それは私が大阪へ引っ越してきてからも続くことになった。「たぬきや」は2018年に惜しまれつつ閉業してしまったが、パリッコさんはそのような店を「天国酒場」と名付けて取材を重ねるようになり、2020年の9月に柏書房から『天国酒場』というタイトルの本を上梓された(どこからページを開いても素晴らしい景観となんとも旨そうな酒や料理が目に飛び込んでくる本なのでぜひ手に取っていただきたい)。

景色がそのまま肴になる酒場を求めて

 私は私で関西を中心にあちこちへ足を伸ばしながら、景色がそのまま酒の肴になるような場所を少しずつ知っては喜びをかみしめていた。今回はそんな中からお気に入りの場所を紹介したいと思う。ちなみにこの店も先述のパリッコさんの『天国酒場』で紹介されているので、併せて読んでいただけたらさらに嬉しい。